どういう意味なん

 朝食時のこと。

 最近また仕事を辞めてしまった私には時間がある。

 だから、朝から揚げ物をしたついでになすびの揚げびたしも作った。

 生姜とネギが合う。

 「やっぱり美味しいね」と言う私に夫が返す。

 「子供の時は食べれんかったのにな」


 子供のころはとした食感が苦手だった。

 だから、お麩なんかも嫌いで噛まずに飲み込んでいたのだけど、なすびはそうするには難しくて最も攻略困難な食材だった。

 働き出して初めての夏に転機は到来した。喘息の持病を持つ子供たちのサマーキャンプにスタッフとして参加した。緊張の反面、私にとっても人生初の沢登りがあったりして楽しかった。

 だが、二日目だったか昼食になすびの煮物が登場した。しばらく見つめたがどうすることもできない。横にも前にも斜めにも無邪気な小学生の子供達がいる。大人の私が苦手だからと残すことはできない。

 覚悟を決めた。

 大きな口を開けなすびを放り込む。

「あれ、おいしい」

 想像していた不快感はなく、なすびのことを間違えて捉えていたことに初めて気づいた日だった。

 あれから40年、とまではいかないが今では大好きな食材だ。


 なすびの揚げびたしを口に入れながら言う。

 「食わず、食べずだったからね」

 あれ、何か違う。

 言い間違えた。

 でも、夫は何も突っ込んでこない。

 あれ、気づいていないのかな。

 夫の顔を見る。

 「どうしたん」不思議そうな顔をしている。

 ダメだ、なんだかツボにはまってしまった。

 笑いが止まらない。しんどい。

 なぜか理解しないままつられて夫も笑い出した。

 笑いすぎて食べられない。


 「食わず嫌いを、食わず食べずって言い間違えただけ」

 「どういう意味なん」

 「うーん、そのままかな」

 「わけわからん」

 「私もわからん」

 エネルギを費やした一日の始まりとなってしまった。

 


 

 


 

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