忘れ物

 息子が小学生のころの懐かしい思い出だったはずなのに、私もだったなんて。


 「行ってきまーす」

 「うん、気を付けてね」

 ドアが、ドンッと勢いよく閉まった後の玄関マットにぽつんと取り残されたくたびれた感のある黒いランドセル。

外を覗いてみるが息子の姿はもう見えなくなっていて唖然とした。着替えて届けに行く準備をしていると再び玄関ドアが大きく響いた。

 「あはは、カバン忘れとった」と、息を切らしながらランドセルを背負って再び駆け出して行った息子。

 ランドセルを忘れて学校に行くとはなかなかに面白い。私の経験では全くもってなかったことだった。その夜、夫にそのことを話すと驚く様子もなく平然と言った。

 「あるよ。高校生の時に。朝、教室に着いたら友達が今日は鞄いらんのかって言ってきてな」

 「えっ、、、」普通にあることなのかと驚いて言葉が続かなかった。その時点では優越感からなのか、自分とは無縁のことだと思っていた。

 

 それから長い年月が経った。

「おはようございます」と、挨拶を交わしながら詰め所の奥まったところに弁当袋を置いた。ハッとした。何かが足らないと自覚した。通勤バッグが無い。慌てて車に戻り確認するもその姿はない。祝日のその日は自分だけが仕事だったため家にカギを掛けることなく、そのまま弁当と車のカギだけを握って家を出てしまっていた。弁当を忘れなかったのは流石だけど。

 別段、仕事中は困らない。ただ困るのは免許証がないことだけ。こんな時に限って帰宅中に無免許運転で捕まりそうな気がする。そんな気がした時点で、引き寄せの法則が働くのではないか。迷った結果、夫に連絡して届けてもらいことなきを得た。

 

 最近思う。

 人って大差ない生き物だと。

優越感と劣等感、喜怒哀楽、ネガティブとポジティブ、言葉に表しきれない様々な感情や思い。

本当は自分の心の中の入れ物に愛だけが入っていたら楽なんだろうけど、なかなか難しい。

 人は日々の生活の中で失敗して落ち込み挫折したり、逆に歓喜に沸いたりしながら生きている。

 でも、そうしながら螺旋階段を一段ずつ上り少しずつ度量の大きい人間へと成長しているのかもしれない。

 それなら、少しでも笑いの種を撒いて重い足を少しでも持ち上げる糧になりたい。

 

 うーん、何故こんな真面目なことを書いてるんだろう。

ただ、自虐ネタを披露したかっただけなのに。

読んでくださった方、ごめんなさい。



 



 

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