羞恥心 1

 まだまだ若かった頃のこと。

 当時の白衣は今とは違いパンツタイプは少なくワンピースタイプが多かった。

 昼食の後、いつもと同じく歯磨きをして制汗剤をスプレーする。暑い夏の日はこれで心身ともに少しだけスッキリした気分になる。

 今日もあと半日だから頑張ろうと呟いて更衣室から出ると、前方から来た院長に声をかけられた。

 「もう、今日は帰るのかな」

 何故そんなことを聞くのだろうかと不思議に思いつつも軽く返答した。

 「えっ、、、いえいえまだ働きますよ」

 「そうか。」と、言うと院長は飄々とした様子で通り過ぎて行った。

 何だか不思議な会話だったと感じつつ階段を降り、透析室前で予防衣(エプロン)を着用しようとしてギョッとした。

一瞬思考停止したが再度自分に目を遣ると、やはり白衣の前ファスナーは全開になっている。制汗剤を豪快に振りかけた開放感のまま廊下を闊歩していたことにやっと気がついた。

院長の言葉はそのことだったのだろうけれど、全く私には届いてはいなかったのだった。


 今なら「やらかしてしまった」とすぐに自虐ネタとして周囲から笑いを取ろうとするのだけども20年以上前の私にはただただ恥ずかしかった。


 いや、本当は今でもその程度の羞恥心は必要なのかも。

 でも、羞恥心って取り戻せるのかしら。


 

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