雪女
昨日からの連休にホッと一息つきながら、年末年始によく働いたと新年早々自画自賛している。
本日からの天候の荒れに備えて昨日のうちに掃除洗濯、買い物と終わらせて炬燵に入りコーヒをすすりながら窓の外を眺める。
積雪はさほどないがほぼ真横に流れていく吹雪を見ていると、時折強風にやられてか擬音語では表現し難い金属音に近いような異様な音が居間に響く。
まるで我が家が悲鳴を上げているかのように。
「頼むから私が生きているうちは頑張って建っていてね」と願う。
旦那のことは気にしない。何かあっても自力でやり過ごして欲しい。
もう、20年以上も前のこと。
車がないと生活も仕事もできないこの地に来て何とか運転免許を習得、初心者マークを張り付けヨタヨタと運転していたころのこと。
その日は午後出勤で真夜中の帰宅だった。
今日と同じような凍てついた雪道に更に追い打ちをかけるような猛吹雪の中、違うところと言えば真っ暗闇で自分の車のライトのみが光っていたことぐらいだった。最悪の環境のもと自分の意思とは関係なく、若葉マークの私の車は右へ左へとさらには進行方向と逆にターンしたりしながらも、途中すれ違う車もなかったことが幸いし車道を独り占めしながら何とか25㎞の距離を一応無事に自宅に着くことができた。
疲労困憊で玄関の鍵を開けてドアを押し開いた。
ガチャ…えっ、もう一度ドアを押すとガチャ…と、鈍い音がする。
「.....」体がこわばる。
チェーンロックが私の帰還を阻んでいる。
インターホンを何度か鳴らしてみるが隙間からはピンポーンがむなしく響くだけ。
一瞬、車内で休むことも考えたが氷点下の吹雪の中だ。地方紙のニュースになりたくはない。子供たちもまだ幼かった。
チェーンロックが阻むドアの隙間から声を出してみる。
どうか、寝室にこの声が届きますようにと。
でも、真夜中に近所迷惑になってもいけないと思い小さめの声で助けを求める。
「おねがい、あけて」
何度か繰り返した。
むなしく諦めかけた時にガタッツと響く音、階段を駆け下りてくる気配。
ガチャガチャ、
ドアを開けた夫は異様な慌てぶりのまま、血の気が引いた顔つきで言う。
「ごめん、うっかりしてた」
「よかった。一晩家に入れないかと思った」と、答える私に夫は少し震えた声で言った。
「ちょうど夢を見て目が覚めた。雪女の、、、」
「???」
私はどうも雪女だったらしい。
いまだにこんな天候の日にはお互いに言う。
「チェーンロックはかけんといてな」
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