第4話 夏になると思い出す

 私はGが大嫌いだ。

だから侵入を阻止すべく努力を惜しまない。その効果があって室内でGを確認することはない。

もう何年も前の話だが寮生活を送る息子が数箱の段ボール箱と共に帰宅した日の夜だった。居間の壁に立派なGが目に映った。

「えっ、嘘!」全身の血の気が引いた。夫は残念なことに入浴中で息子も苦手でその場から一瞬にして逃げてしまった。

室内でGを発見することがない我が家ではスプレー剤はないし変に動き回られても困る。

仕方なく意を決して壁でじっと動かずいるGめがけて思いっきりハエ叩きを振り下ろした。

見事命中。手に汗握るとはこのこと。

息を止めその後の処理をなんとか行った後に息子が居間に戻ってきた。

「Gを連れて帰ったやろ」と、私。

「違う、○○産のGと違う」と息子が答えた。 ※ ○○:息子の寮がある地域名

「でも、Gは動かんかったで。夜はここ涼しいから○○産は動けへんかったんや」

「いや違う、触覚の長さが○○産はもっと長いし色もちょっと違う」


とても低俗な親子バトルがひと時続いた。


夏になると思い出すG事件。

Gは嫌いだが今となっては我が家の一つの懐かしい思い出となった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る