第二章:解決屋、始動
第2話 異常な世界
点々と光が灯る暗闇には、白いもやが所々でかかった青色の楕円形の物体が浮かんでおり、そこからは、何かの物体が幾つか飛び出てくるのが、傑の目に映る。
(地球だ、これは……)
学生時代に高い学力を誇った傑は、青色の物体がすぐに地球なんだなと分かった。
「!?」
地球の真ん中に、ヒビ割れが生じており、水分で満たされた物体に澱みが出ている。
「これは、何だ……!?」
かつて昔、特殊部隊だった頃仲良くなった仲間や、疎遠となった学生時代の友人、そして、生まれてすぐの自分を赤ちゃんポストに入れて失踪した両親はどうなっているのだろうか、地球が割れるなんて相当ただ事ではないぞと傑は恐怖に感じている。
****
「うーんうーん……はっ」
傑は酷くうなされていたのか、大量の汗をかいて、汗の温度で目が覚める。
目の前には、木製でできた壁と、そこに掲げられた鷲のような絵が書いてある旗、刀剣が置かれ、傑は、あぁ、俺は多分倒れたか何かして、金持ちか何かに匿われたんじゃないか、いや、しかしここはどこなんだと身の危険を感じている。
木製の扉の向こうからは、ドタドタという音が聞こえ、誰なんだ、と傑は立ち上がり身構えようとするのだが、腹がぐうとなり、身体がふらりとする。
扉が開き、そっち系の人に俺は殺されるのかと思いながら身震いをしていると、傑の前に青色の髪と青の瞳をして白い肌の、自分と同じか年下の女性が、気がついたのね、と呟いて安堵をした表情を浮かべている。
「あ、すいません、なんか俺気を失っちゃったらしくて……その、ここ、どこっすか?」
「ここは、セラ国です。あなたは、いきなり空から落ちて、酷い怪我をして寝ていたのです……」
「え!? ってか俺怪我してないんだが……」
「それは、魔法で治したのです。つい先程まで魔法をかけていたのです。貴方は、やはり予言の書にある勇者様なのですね……」
その女は、まるでイケメンのアイドルかモデルを見ているかのような恋をする乙女のキラキラした目つきで傑を見やり、この女やばいんじゃないかという恐怖に襲われる。
「いや、俺は勇者じゃ無くてさ……その、何でも屋さんなんだが……ここは、精神病院とかでは無いはずだよな? ここの責任者に会いたいんだが……」
傑は、精神安定剤や抗うつ剤は特殊部隊時代に鬱病になり精神内科に通い服用していたのだがここ3年ほどは飲んでおらず、復讐代行のようなあごきな商売をしているツケでとうとう心が病んだのかなと不安に襲われる。
「はわっ! 何でも屋さんですって!? なんてかっこいい職業なんでしょう! 兎も角、国王様に会ってください! 会いたがっているのです!」
「いや、君大丈夫か? 色んな意味で……。君の名前はなんて言うんだ……? てか、責任者的な存在を出してはくれないか?」
「セレナです! セレナ・ハレナードです! 責任者は私です! 私ここで画家をして暮らしてるんですよ! あの! 国王の元へと……」
「いや、ここはどこなんだ!?」
「兎も角きてください!」
傑は慌ただしい様子のセレナを見て、やれやれ仕方ないなと思い立ち上がると、ボロボロにちぎれ、所々に血の染みが点々とついた服を見てギョッとする。
「うわっ!? なんだこりゃ!? 俺こんなに重症だったのか!?」
「ええ! 肋が3本ぐらい突き出てて、首は明後日の方向に向いてて、膝はぐちゃぐちゃで……魔法が無かったら絶対助からなかったですよ!」
「そ、そうか……」
(いやその、魔法ってやつはイマイチ胡散臭いんだが、まあ助かったからいいとして……この女、電波出てやがる……! 画家で暮らしてるだと? どうせ、どこかの誰かの腹の上で腰を振って暮らしてるんだろうな……こんな、道楽の延長なんざパトロンがいない限りは無理だからな……。しかし、俺が勇者だって? 異世界転移の世界ってやつか? ラノベでよく見る……。いや落ち着けよ、これは、俺自身の精神があごきな商売で疲弊している為、心の平衡が崩れて見える世界なんじゃ無いのか?)
「? どうしたんですか、フリーズしちゃって。あっ、そうですよね、そんなボロボロの服装のまんま出かけたら破廉恥ですからね。今服を用意してきますからね!」
セレナは、まるで体育会系の部活のかっこいい部員と接するマネージャーの様に青春の一ページの如く惚れているのか恥ずかしい様子でウキウキと部屋を出て行く。
(彼女俺に惚れてんのかよ……異世界か精神世界かこのいかれた世界はよくわかんねーけれども、こんな風になるんだったら、もっと女抱いておけばよかったなあ……)
傑はタバコを吸いたくなる気持ちに襲われるのだが、当然の事ながらこの世界には、タバコの葉を加工処理して、化学物質で作られたフィルターなどの、文明が進んだところでしか作れないものは存在しないんだろうなと感じ、深いため息をつく。
どたどたという音が聞こえ、男の声と女の声が聞こえて、今度は誰なんだと傑はうんざりしながら扉の方を見やると、セレナと同じく青色の髪と瞳をした、20代前半の自分と同じぐらいの、気弱そうな、現実世界でいう暗キャにあたるような大人しそうな男が物珍しい顔で傑を見ている。
「うわー、本当に真っ黒の髪と目だ。予言に出てくる人なんじゃ無いか? でも、突然変異かもしれないぞ?」
「うんそれをね、これから国王様のところに連れて行って会わせてみようって思ってね。だってね、私達庶民じゃあわからないんじゃないの?」
「うん、そうだよね。これから行こう」
「そうね。はい、服。お父さんと同じサイズっぽいからね、多分合うでしょ」
「あぁ……いやしかし、お父様になんか悪いんだが、どこか店で買うよ」
「いや気にしないでも大丈夫ですよ、だって私、もう親兄弟亡くなって天涯孤独だから……」
セレナの表情が暗くなり、辺りが気まずくなり、慌てて傑は服を着始める。
「あぁ、確かにこりゃあ、サイズはぴったりだ」
(しかし、なんだってこの服装は、アーミッシュとよく似たやつなんだろうなあ……)
彼等のきている服装は、欧州にあるアーミッシュと良く似たものであるが、セレナは若草色のワンピースを着て、隣にいる男は半袖の黒のローブのようなものを着ている。
「さて、着替えましたね、では……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、何か食べさせてくれないか? 金ならば出す。ずっと腹がペコペコなんだ……」
「あぁ、確かに一週間寝てましたからね。では、ご飯を軽く作ってきますから待っててくださいね」
セレナはそう言って、ふんふんと台所へ続くであろう道へと軽足で進む。
「なぁ、あんた名前なんて言うんだ?」
セレナの隣にいる男は、異世界から来た傑を不思議そうな表情を浮かべながら名前を尋ねる。
「真壁傑だ」
「マカベスグ……?」
「真壁傑、マクベスでいいよ。どうせ仲間内で呼ばれてるし」
「そうか、私の名前はバルデス、バルデス・ゴーバール。職業は魔導師だ。君の職業は何だ?」
「何でも屋だ」
「そんな職業はこの国には無かったはずだったんだが……まぁ、いいか。ご飯を食べたら国王に会いに行こう」
「あぁ」
傑は再度ベットに横になり、天井を見つめると、天井一面に蝶の絵が描かれており、羽には人の顔が描かれ、前衛的ともいえる絵に度肝を抜かれ、ますますセレナという女が訳が分からなくなってきたぞと頭がこんがらがる気持ちに襲われる。
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