異世界トラブルシューターマクベス〜現代世界で解決屋を営んでた俺は、異世界転移してまた解決屋をやる事になりました〜

第零章:プロローグ

第1話 真壁傑

 24時00分24秒、都心に近い某所は、それなりに多い昼間の人の波から引き続き夜の今まで人がいる。


 夜のネオン煌びやかな繁華街には、金目的で誉め殺しとも言える綺麗事を述べるホストやキャバクラ嬢、1円ぽっちにも満たない広告料を増やすためにあたり構わず迷惑行為を行う、俗に言う迷惑系YouTuber、スマホの小さな画面の中にあるモンスターを集める為に徘徊する馬鹿、親のスネをかじる学生がおり、見る人間にとっては違う光景を醸し出す。


 残飯を漁る溝鼠や野良猫、ゴキブリの根城と化している飲食店の脇の道路に、そいつはいた。


「おいテメェ、何の用があっておれをつけ回すんだ?」


 殆ど人が通らない、大通りから離れた道に、今流行のヒップホップスタイルに身を包んだ中肉中背の30代前半の男は、さっきから尾けている細身で長身のサングラスをかけた銀髪で、豹柄のシャツとレザーパンツといった痛いファッションに身を包んだ、自分とは真逆のそいつに恐怖を感じているのだが、日頃のストレスでの暴力衝動が芽生え、強い口調で尋ねる。


「いやね、君ちょっと粗相してるからね、躾けにきたんだよ」


 今日日の中学生でもしない、自己主張が強すぎる痛い格好をしたそいつは、穏やかな口調でヒップホップに夢中な彼にそう告げる。


「あ!? 粗相だと!? 俺は礼儀正しいことで有名なんだよ!」


「檜山和輝くんだったよね? 君の名前。ダメだよ、いい年こいた大人が売春なんかやっちゃあさ」


「あ!? なんで知ってんだ!? 殺すぞ!」


 和輝はバッグの中からスタンガンを取り出し、そいつに向けて電源ボタンを押してバチバチと火花を出して威嚇する。


「有名W大経済学部を出て教員免許を取って、中学校の教師になったのかあ、立派だねぇ。でもさあ、流石に生徒に手を出しちゃあダメだよ」


「うるせえ!」


 そのスタンガンは発射式であり、和輝は仮にもし命中したら人の命を奪いかねない危険な護身用のものを躊躇いもなくそいつに向けて発射する。


 そいつはスタンガンの軌道をあらかじめ予測していたのか、体を横に向けて避け、側転をし和輝の方へと向かい、かかと落としを喰らわせる。


「うっ」


 鉛が入った靴が頭に命中し、和輝は気を失って地面に崩れ落ちる。


(一丁上がりだな)


 そいつは、和輝の手に持っているスタンガンを奪い取り、装着式のバッテリーを外し、手錠をかけ、スマホでそれを撮影して、何処かへと電話する。


「お休みのところ失礼します。真壁ですが、ターゲットの檜山を見つけまして、今拘束しました。これから、後処理を行います。残りの報酬は明日の正午0時に頂きます。……ええ、お子様の画像は勿論、パソコンの中に入っていたデータは警察には渡してありますね。仮に失敗したとしても、法の裁きは受けていたでしょう。……いえ、仕事ですのでお気になさらないでください。では、明日お待ちしております……」


 真壁という名前のその男は、誰もいないこの時間を見計らい、拘束されて気を失っている和輝を背負い、何処かへと消えていった。


 $$$$


 人間は死ぬ間際になると何かしらの神経伝達物質が分泌されて記憶回路が暴走し、走馬灯や死後の世界の入り口が見えるという。


 和輝の頭の中は、今までの思い出がジェットコースターのように駆け巡っている。


 中学はテニスで県大会の二回戦まで行き、推薦でエスカレーター式の高校へと入学したのはいいのだが靭帯を切ってしまい、選手生命が断たれて学校には行きづらくなり退学する羽目になった。


 だが、編入先の高校では猛勉強をして偏差値が60を超え、著名人の母校で知られている有名私立大学のW大学へと進学、将来のことを見据えて公務員である教師の道を進むことを決意して教員免許を取り、中学校の社会科教諭となった。


 ここまでは良かったのだが、ある日を境に和輝の運命の歯車は狂い始めていく。


 趣味で利用している変態スワッピングバーに、母親に連れられて一緒に来た中学生の女の子とのまだ体が成熟する前で破瓜を迎えた性的プレイに、辛うじて理性を保っている、これを外しては家畜となるであろう一本の糸がぷつりと音を立ててちぎれた。


 その日から和輝はロリコンとしての、人の道を外れた外道に成り下がり、出会い系アプリを利用して遊ぶ金目的の女子中学生を金で誘い、ホテルで裸を隠し撮りして、肉体関係を維持しないとリベンジポルノをすると脅して、複数の中学生と酒池肉林の淫らな関係を築き上げていたのである。


「……はっ」


 和輝は目が覚めると、口はガムテープで塞がれ、両手両足に手錠をかけられており、目の前には今まで自分と関係を持った女子中学生とその親がおり、隣には真壁がいる。


「はい、お目覚めですね。これから、貴方には罪を償っていただきます」


「……!」


「騒いでも無駄ですよ、ここは廃工場でして、ここ数十年人は来てません」


 和輝は周りを見やると、所々に黒いシミが淡々と残る壁と、埃だらけのベルトコンベア、空き缶が置かれており、食品工場であったんだな、いやそんなことよりも俺死ぬのかなと無情な現実が襲い掛かってくる。


 女子中学生の一人が、ペンチを持ち、和輝の前に立ち、爪を思い切り引き抜く。


「んー! んんんー!」


「ねぇ、痛い? 私のあそこに人参を入れた時と同じ痛みよ……!」


(性器に人参を入れるとは、本当に変態だなこの野郎は……)


 真壁は、爪を引っこ抜かれて苦痛の表情を浮かべている和輝を見て侮蔑の笑みを浮かべ、タバコを口に加え、あとは任せましたよ、と一言伝えて、彼らの前から消えて行こうとする。


「あのっ……ありがとうございました」


 茶髪のショートヘアの30代後半の女性は、真壁に感謝しながら、茶封筒を手渡そうとする。


「これは、私からのお気持ちなのですが……」


「いえ、私は指定された額以外のお金は貰わないようにしているのです、情が芽生えると商売に差し支えるので……」


 真壁はそう言い、踵を返して廃工場を後にする。


 ****


「あーあ、どうしょうもねー屑だなこりゃあ……」


 8畳半のワンルームにはテーブルとパソコンとソファしかなく、ソファに座っている真壁はボソリと呟き、タバコを灰皿に揉み消す。


 今の季節は春、5月の中旬であり、新芽が出て、清々しい時期の筈なのだが、先程の和輝の依頼があり、速やかに終えたのだが、心の中は陰鬱な気持ちなのである。


(この商売はもう終わりにすっかなあ……)


 パソコンの画面には、『株式会社マクベス』とデカデカと表示され、何でも屋と書いてある。


 真壁傑が何でも屋『株式会社マクベス』を立ち上げたのは一年前、海外のとある国の特殊部隊を嫌気がさして辞めて、24歳になったばかりの歳である。


 表向きは何でも屋なのだが、元特殊部隊という経歴は裏の世界で噂を呼び、決して表沙汰にしてはいけない案件を解決する、解決屋稼業なのである。


(にしても、綺麗だなこの水晶は……)


 傑はテーブルの上に置かれている水晶玉を手に取り、まじまじと見つめる。


 この水晶玉は、今までの依頼人の中で海外に単身赴任をしていた者がおり、エジプトのジプシーがお別れの挨拶にくれたと言い、欲しいぞ的なオーラを出したらあっさりとくれたのである。


 水晶に映し出される、20代も後半に差し掛かった、どちらかと言えば西洋人寄りの自分の顔を見ていると、つるりと水晶玉が手から滑り落ちる。


「あ、やべえ!」


 地面に当たり、ガシャン、と音を立てて壊れた水晶玉から、禍々しい紫の煙が出てきて、傑の体を覆い尽くす。


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