聖女様に醜い神様との結婚を押し付けられました

赤村咲

1章

1話

 ……どうして、私がこんな目に遭わなきゃいけないのだろう。


 国の守護者たる神々の住まう場所――神殿。

 その神殿の一室で、私は一人立ち尽くしていた。


 部屋の中にあるのは、ほとんど朽ちかけの古くて粗末な家具が一式と、払っても払いきれない山のような埃。

 そして埃の中でうごめく――なにか。


 汚れた部屋の中でもなお目に付く『それ』は、一言で言うなら「巨大な汚泥のかたまり」だ。

 こんもりと山のようになっている他は、形らしい形を持たない。

 表面は粘っこく、どろどろとしたもので覆われている。

 それが動くたびに部屋に汚れがこびりつき、なんとも言えない悪臭が漂ってくる。


 ――う……っ。


 思わず怯み、部屋から逃げ出したくなる。

 だけど、『彼』を前に、私が逃げるわけにはいかなかった。


 なぜならば、目の前の泥のような物体――『彼』こそは、この神殿に住まう神々の一柱。

 どれほど醜かろうと、人の姿すら持たなかろうと――たとえ、神々の中でも最弱の『無能神』と呼ばれていようと、神は神。


 そして――――。


 不本意ながらも、私が聖女アマルダ様に代わって、これからお世話をすることになる相手なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る