夕暮れと「またあした」
「楽しかったねー」
「でも、あした筋肉痛になりそう」
「ほんと」
「送ってくれてありがとう、隼くん」
「気をつけてね。うたさんも、またね」
りりかちゃん、茉衣子ちゃん、良江ちゃん、祐介くんを送ってから、隼くんの運転する車で商店街に帰ってきた。伍郎くんの家はすぐ裏だし、ケントくんもホームステイ先のマスターの家はここから近い。隼くんはうちの店の上。私は朝、店に豚汁とひと口ドーナツを作りに来たから、いつものように自転車で帰る。
「じゃあねー」
腰を押さえながら伍郎くんが帰っていく。
茜色に染まった空、どこかでカラスが「カァ」と鳴いた。
「楽しかったなあ」
名残惜しそうな顔で、ケントくんは言う。
「そうね」
「隼クンって運動神経いいよね。今日のMVPじゃない?」
「そんなことないって」
「ホントね。で、逆の意味のMVPは私だと思う。自慢じゃないけど」
そう言って『えへん』と胸を張ってみせると、ケントくんと隼くんは笑った。否定はしないのね?
「あれ?うたチャン、帰らないの?」
店の鍵を開けた私に、ケントくんは聞いてきた。
「うん。少しあしたの仕込みとか、ほかにちょこちょこっとしておこうと思って。できるだけやっておいたほうが、あした筋肉痛になったときのために…というかなるはずだから」
そうだ、あしたじゃなくて、三十過ぎの私の筋肉痛は二、三日後あたりに来るかもしれない――――て、この“年取ったら遅れてやってくる”説、正しいのかしら。あ。それと似てるけど、体が大きい恐竜は尻尾に何か刺さったりしても脳に届くまで時間がかかるので、すぐには気づかなくて、しばらくしてから「おや?」ってなるって聞いたことがあるけど、本当?うーん。
「うたさん?」
「ん?え?ごめん、なんか言った?」
「あはは、戻ってきた」
「うん、ジュラ紀まで行ってたわ」
「「え?」」
みっつ並んだ影。
「ねえ、見て。真ん中が小さすぎて、私、囚われた宇宙人状態」
「「あはははは」」
全力で遊んだ日。
楽しかったね。
疲れたね。
暮れゆく空が、太陽と一緒に楽しかった時間を連れていってしまう。
もう戻らない
「あしたも晴れるといいね」
お風呂に入って、髪を乾かし、歯を磨いた。冷たい麦茶を飲みながらテレビを観ていると、船をこいでしまう。もう限界だあ。
最後の力を振り絞り、はうように二階に上がって、投げるように布団を敷いて、飛び込むように倒れ込む。
「あ~、おやすみぃ……」
暗闇の中に浮かぶ、白い内障子。ぼんやりとヤモリの影が映っている。
「…すぅ」
また、あした。
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