オニとボブ

「良江ちゃん!見つけた!」


 鬼の伍郎くんが、缶に向かって走った。

 が、その横をひゅんっと良江ちゃんが追い越して、缶をスコンと蹴った。


「ああぁーっっ」


 漫画のように片手を前に出して、『待ってー』な伍郎くん。良江ちゃん、元陸上部なのよね。


 現在“だるまさんがころんだ”の次、缶蹴り中。そして伍郎くんが鬼。…最初にジャンケンで負けてから、鬼。ずーっと、鬼。

 何度も隠れてるみんなを見つけはするんだけれども、そのたびに、先に缶を蹴られてしまうのよね。みんな走るの速い。

 伍郎くんも遅くはない、ただほかのみんなが速すぎるだけ。運動神経いいのよね、みんな。あ、私以外ね。だから私を見つけると百パーセント捕まるだろうけど、なんとか耐えている。人一倍ミニサイズだから、見つかりにくいのかもしれない。ラッキー?




 まだ続いている鬼の伍郎くんが缶の上に右足を置いて、目を閉じ、数を数え始めた。すると、りりかちゃんが音もなくスススと伍郎くんの背後に回り、隠れている私たちに向けて微笑んだ。こわ


「よんじゅうきゅーう、ごーじゅう!」


 ぱっと目を開けた伍郎くんの右足が缶から離れた瞬間、りりかちゃんがすかさず――――『スコーン』のち『キラーン』。空き缶は星になった…………かのように飛んでいった。




「よっ、はぁはぁ、よ、良江ちゃんっ、っはぁ、見ー、つっ、はぁ、けたっっ」


 伍郎くん(鬼)がさすがにヘロヘロになりながら、缶に向かう。立ち上がった良江ちゃんは、八の字気味の眉をより八の字にして苦笑いを浮かべ、ゆっくりと伍郎くんのあとを追った。かわいそうになったのね。そうよね、そろそろジャンケンでやり直したほうがいいかな。


「あぁっ!はっ、りっ、りりかちゃんっ、見っつけ――――」


 缶のそばにりりかちゃんが立っている。にっこり。まさか………………。


 スッコーーン!!!


「――――たうそぉーーーーっっっ」


 鬼だ。真の鬼がここにいる。






 なんとかりりかちゃんを納得させて、ジャンケン。隼くんが負けて鬼になった。


「うたチャン、うたチャン」


 植木と植木の隙間に隠れていると、ケントくんが小声で呼びながら近づいてきた。


「うたチャンのお団子、見られたらすぐにうたチャンだってばれちゃうから、変えない?で、わざと見せて間違えさせる、OK?」

「そんなことやっても、あり?」

「ははっ、ありあり」


 ケントくんは、植木からはみ出ないよう頑張って小さく丸まりながら、私のうしろで髪を弄り始める。


「よし、できた。代わりに、この黒いタオルハンカチを丸めて…ボクの髪に…括り付ける――――と、お団子の出来上がり~。はい、ボク“うたチャン”です」

「いや……。無理があるわよ。ケントくん、金髪なんだから」

「駄目?ぱっと見、勘違いさせればいいだけだから大丈夫だと思うんだけど。じゃあみんなにタオルハンカチ団子、付けに行こうかな。みんなは髪黒いから」

「そんな枚数あるの?黒いタオルハンカチ」

「…無い。あ、そうか、そのまま地毛でお団子作ればいいんだ」

「なるほど。そうね。あぁでも、ゴムとピンが足りないんじゃない?」

「ああー、そうだ、いまは持ってないや。どうしようかな、ゴムの代わりに何か、ひもとか…」

「そうだ、私のゴムを切ってみんなに…………ん?ん?これ、私の頭、どうなってんの??」

「三つ編みにして、まとめて内側に入れ込んだ“なんちゃってボブ”にしてみた。茉衣子サンと間違えるかなと思って」

「いやいや、間違えないでしょ、この毛量じゃ」

「大丈夫大丈夫、ぱっと見ぱっと見」

「まるでヘルメット…あぁっそうだ、これ、外すときすぐ外せる?このあいだ、やってくれたでしょ?きれいにまとめてくれてうれしかったんだけど、そのあとちょっと外すのに…。私不器用だから。何度、髪切ったほうが早いよねとハサミを握ったことか」

「ははっ、そんなに?」

「ほら、その日の夜、コンビニで会ったでしょ?じつはあれ、どうにかこうにかなんとかかんとか必死で外した直後よ」

「あー、あれ……。………………」

「店員の子、私見て一瞬固まったわよ」

「ぷっ」

「「あはははははは」」


 ガサリ。


「ん?」

「え?」

「あの」

「隼くん」

「隼クン」

「はい。えーっと。すみません。うたさんとケントくん、見つけました」

「「!!!!」」


 現在いま、缶蹴りの真っ最中だったこと、すっかり忘れてたわ………………。




 そのあとも、バトミントンやドッジボール、ゴム跳びなど、陽が傾くころになるまで、みんなで子供に戻って遊んだ。





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