だるまさんところんだ
楽しい野球大会でいい汗をかいて、青空の下で食べるバーベキューはとてもおいしい。――――野球大会で汗をかいたのは私ではなく隼くんだろうということで、隼くんには店で作ってきた豚汁を肉多めに
飲んで食べて、食べて飲んで、まだまだ元気な子供たちは公園内のアスレチック施設へ遊びに行った。大人たちは運動・満腹・アルコールで、あちらこちらの日陰で大小さまざまな寝息を立てている。
「ねえねえ、みんなまだ元気?」
キラキラした瞳で、ケントくんは言った。童心に帰ったかのように。
「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」
ジャンケンで負けた鬼の茉衣子ちゃんが振り向いて、誰か動いていないか見渡している。その時片足を上げていた伍郎くんがプルプルしだした。限界か?
「へつくしよん」
「あっ、祐介!動いた!」
………………………………………………。
「ふう。すみません。我慢できませんでした」
動いたのを見つけて喜ぶ茉衣子ちゃんと、くしゃみをして動いてしまった祐介くん。さっさと茉衣子ちゃんの所へ歩いていく。
「ふふっ。仕方ないわよね、動いたもんね、くしゃみでも関係ないわよねーだ」
「わかってますよ」
そんなふたりの会話を聞きながら私たちは――――
「“つ”と“よ”をハッキリと発音するような、そんな雑なくしゃみをするぐらいなら、いっそ目の前で堂々と鼻にこより突っ込んでやってくれたほうが清々しくていいと思うんですけどお」
「き、きっと木津くんの精いっぱいなのよ。うん」
「それに気づかない茉衣子さんも。そのうち、高い壺買わされちゃいますよー」
「それは………」
「茉衣子ちゃん、純粋なのよねえ」
「ねっ、おっ、ねぇ、なん、で祐介くんは、あえて、捕まった、の?っと」
伍郎くんの質問に、沈黙。
伍郎くんは「おっとっと」と、体を揺らしながらまだ片足を上げていた。
祐介くんと茉衣子ちゃんは
「………………」
「え?ぼ、僕、何かした?」
伍郎くんに視線が集まった。いや、伍郎くんのせいではない。伍郎くんはまったくもって悪くない。ああでも、祐介くんだけは伍郎くんが悪いってことになるのかも。
「伍郎くんが、というより“だるまさんがころんだ”のルールのせいじゃない?」
鬼に動いているのが見つかった子は、鬼と小指を繋ぐ。――――鬼と小指を繋ぐ。はい、二回言わせていただきました。
「もっと言えば、祐介くん以外の男性すべてが敵だから、かも?」
自分で言っときながら、ちょっと引いた。
「なるほど。でもさ、女の子はヤキモチとか独占欲とか、そういうの、好きじゃないの?」
顎に手を添え、小首を傾げながら聞いてくるケントくん。
「んー、人に依るんじゃないかしら」
釣られて同じく小首を傾げてしまいながら言う私。
「私は………………う…うれしい……かも」
少し上目遣いで恥ずかしそうにつぶやく良江ちゃん。かぁわいい。
「………良江さん。よく考えてみてください。人間って、生物学的には男と女しかいません。まぁ、いまは第三、第四の性とかありそうですけど」
そっと
隼くんは大人しく黙って、みんなの話を聞いている。
りりかちゃんの演説、長くなりそうだなぁと思いながら鬼の茉衣子ちゃんの方を見ると、祐介くんと小指を『繋ぐ』『繋がない』みたいな微笑ましいやり取りを顔を赤くしながらやっていた。んー、ピュアッピュアな世界。対してこちらは…………。
理想と現実。光と闇。善と悪。表裏一体が具現化された奇跡のコラボ。夢は見るものじゃない、叶えるもの。………………。訳わかんなくなった。
「外国に行ったらどうします?挨拶で握手したり、ハグしたり、ほっぺにチュッなんてこともありますよ?そのたびに邪魔するんですよ?相手は『なんだコイツ』です。『こっちはそんな気ないっちゅうねん』ですう」
「う、うん。そうよね」
「ケントくん」
いきなり、りりかちゃんに呼ばれて戸惑うケントくん。
「なっ、何?」
「いちおう言っとくけど、触られたりした所を『消毒だよ』とか言ってキスしたりするのやってるとしたら、止めたほうがいいわよお」
「…駄目なんだ…」
うわ。
「それ、喜ぶのって、少女漫画やライトノベルの世界だから。現実だとキモイー。もうギャグでしかないわあ」
「気を、うん、気を、つけるよ…」
「わ…私は………う…うれしい………けど………」
「みんながみんな、サプライズ好きだとも思っちゃ駄目よ。その最たるものはフラッシュモブで、そんなの、やる側の自己満足でしかないんだからね。それから――――」
シャキーン。成敗。…………もうやめてあげて。
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