りりかと前世①
あたし、この女、だーい嫌ーい。
臭いしイジワルだし。
あたし、知ってるのよ。
この女、本当はご主人サマの本当のママじゃないって。
「臭いっっ。獣臭いわっ。さっさとそれをどこかへおやりっ」
勝手にあたしが昼寝してる所に来たくせに。それに臭いのはアンタのまき散らしてる香水だっつーの。こら、この、侍女、あたしの自慢の耳をつかむんじゃない!いいわ、そっちがその気なら、こっちだって手加減はしないわよ。食らえ!必殺、漆黒のパンデモニウム、出でよ、“
「いやっ、このウサギ、フンをしたわーっっ」
ばーか、ただのウサギじゃないのよ。黒いのよ。カッコいいでしょ。白はカワイコぶってるし茶はナチュラルぶってるし。やっぱ時代は黒よ、ク、ロ。
「どうする?殿下の所へ連れていく?」
「いまは駄目でしょ。またゆうべ、殿下の具合がお悪くて、侍医長がバタバタしてらしたから」
「じゃ、ほら、どこか散歩にでも行っておいで。お后サマに見つからないようにね」
「遠くに行っちゃ駄目よ」
ふん。あたしは賢い黒ウサギだからね、ご主人サマに迷惑をかけないのよ。さてと、今日はドコへ遊びに行こうかな。
……………マズいわ。マズったわ。ココドコかしら。開いていた扉から、つい、出ちゃって。それから、つい、チョウチョを追いかけてしまって。そのあと、ハチに追いかけられてしまって。気づいたら、森の中。もう、誰ー?まったくもう、ちゃんと扉閉めときなさいよね。
「ヒラリー、ウサギがいる、そこ」
「あ、殿下」
あらこんな所に家が、と思って近づいていったら、金色の髪の男の子と茶色の髪の女の子が出てきた。女の子が着ている服、侍女たちが着ているのに似てるわね。男の子は――――服以前に髪の毛の寝癖、なんとかしなさいよ。
「殿下、御髪を整えないと」
「えー。これで大丈夫だよ」
ドコをどう見たら大丈夫と言えるのかしら。右に左に上に下に、とっ散らかってるんだから。ほら、やり方教えてあげるからやってみなさい。ココをこうしてコッチはこうして、もうちょっとココんとここういう風にして、とくにココはこうしないとアレだから、コッチからこう、こうよ。
「一生懸命、毛繕いしててかわいいね」
「殿下、もう少しだけ動かないようお願いいたします」
ふっ。“かわいい”は当然でしょ。ふふ、あたしを誰だと思ってるの。はっ、思わず歯を鳴らしそうだったわ。危ない危ない。あたしはそんな簡単にナビく女じゃないんだからね。あら、この女の子、なかなか良い手首の返しをするわ。ま、あたしにはトウテイ及ばないけど。
「この子、首にリボンしてる」
「黄色のリボン………。あ……」
「ヒラリー、知ってる子?」
「はい……。えっと、…………第二王子の…その…王太子殿下の…飼ってらっしゃるウサギだと……、聞いたことがあります」
「そうなんだ。ん?」
そうよ。あたしのご主人サマは、王子サマなんだから。カッコよくて、すっごくすっごく優しいの。いまちょっと調子が良くなくて寝てばかりなんだけど、すぐに元気になるわ。そしたらもっとタクサンなでてもらうの。名前を呼んで、かわいいかわいいって。
「名前が書いてある。“ミミィ”?」
はいはーい!カチカチカチ。………………いやだ。あたしったら。歯、鳴らしちゃったわ。
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