鈴木くんと高橋くん

「あー眠ぃ。昨日もさぁ二時間しか寝てなくてさ。だりぃ」


 今日も謎の“寝てない自慢”をする鈴木くん。


 おとといは三時間、その前は一時間。きっとあしたは一時間。ヤツは睡眠時間を、三二一、三二一、と、うそくさく繰り返し言ってくる。気づいてないと思っているのか、ワルツ鈴木。


「眠気覚ましに、冷蔵庫に補充いってくるわ」


 意外と働き者なんだよな~、偉いぞ鈴木くん。

 こんな住宅街の平日深夜に客はほとんど来ないのにさ。


 んー暇だ。俺も眠くなるじゃないか。なんか目が覚めるような面白いこと、起きねぇかな。


 ピンポーン。


「いらっしゃいませー」


 うわ、まさかの外国人。背も高くて、くそ、カッコいいじゃねえか。いちおう俺も家族の中じゃ、いちばん高いんだけどな。…まぁ比べる基準がそもそも低いんだけど。ちぇ。


 ぐるり一周してから、お、煎餅見て頭捻ってる。

 何かわかってないのかな。

 食いもんだってのはわかるよな、ちょっと硬いけど。茶色の食べ物はだいたいうまいんだ。きっと全世界共通だ、ブラザー。


 ピンポーン。


「いっ」


「…らっしゃいませ」


 ……目の前を、人に化けて買い物に来たケサランパサランが通り過ぎていく……。


 フワフワした白い毛玉の謎の生物“ケサランパサラン”の黒髪バージョン。擬人化の波がここまできたのか……。


 白いかっぽう着、ジーンズ、サンダル、手にはガマ口財布を握りしめている。いや、そんなものはぶっ飛んでしまう頭のボンバー感。


「うたチャン?」

「あら、ケントくん」


 知り合いだったのか、ブラザー。






「あーやっぱ、冷蔵庫ごときじゃあ目ぇ覚めねぇわ」


 うそつけ、汗ばんでるじゃねえか。冷蔵庫でどんだけ働いてきたんだよ。ほらよ。


「ん?コーヒー?くれんの?やりぃ。サンキュー、高橋くん」


 根はマジメで、いい奴なんだ。


「一日二十四時間じゃ足りないぜ。四十時間くらいあったらなぁ」


 たまにイラッとするくらいで。


「でもそうなったらなったで、けっきょく一緒な気がするけどな。思いっきり寝てみてぇ~~」


 ……………………………………………………。


「コーヒー飲むとトイレ近くなるよな。っと、ついでに掃除してくるか」


 うん、いい奴なんだ。







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