うたとケント

「かわいいなぁ。この子、女の子だよね?三毛って男の子は珍しいから、たしか」

「…イエス?」

「…あの、ボク日本語話してるでしょ?しかもけっこう流ちょうだと思うけど」

「はっ」


 …………思い込みって嫌ねぇ、まったく。

 それよりも、この界わいで外国人を初めて見たわ。おまけにネイティブ並みの日本語。


「やったげようか?髪、まとめればいいの?」

「え、いいわよ、自分でするから」

「まぁそう言わずに。ここはひとつ、この飴玉で」


 と、金髪くんは黄色の紙に包まれた丸い飴をひとつ取り出した。


「ね?」


 下から青い瞳がのぞき込む。


「…じゃあお願いしようかな」

「よかった」


 つい承諾してしまった。誰だかわかんないのに。

 なんだかかわいらしかったのもあるけれど、なによりいちばんは“またお団子を作るのがめんどくさい”だ。きっと私よりはうまくやってくれるだろう、たぶん。あー、いまの私の理想の髪型は丸刈りだわ。


「そうだ、ピン飛んでいっちゃったから無いわ」

「大丈夫。持ってるから」


 ごそごそと、彼は持っていたキャリーバッグからピンの入った小さなケースとゴム紐数本とブラシを取り出した。


「あなた美容師さん?」

「うーん、似たようなものかなあ」


 ふーん、と言いながら、我関せずで眠っているたまちゃんの横に座って髪を任せる。レモン味の飴玉を口の中で転がしながら、とても懐かしい気持ちになった。


「ん?なんで笑ってるの?」

「ちょっとね。を思い出したの」

「?」




 いいよ、これくらい。

 駄目です。ここ、まだ寝癖が……。

 どうせまた、あした付くよ。

 そしたらまた、あしたも直します。

 えー。あさっても?

 はい。あさっても、しあさっても、です。ずっと、です。




「はい、出来上がり」

「ありがとう」

「……………」

「?何か付いてる?」

「あのさ、どこかで会ったこと、ある?」

「え」

「おや。ケントくんかい?早かったね」


 来夢のマスターが店から出てきた。


「あ、おじサン。しばらくお世話になります」

「よく来たね。うたちゃん、紹介するよ。このあいだ言ってただろ、息子俊宏の友達がホームステイするって。ケントくんって言うんだ」

「そういえば……」

「うたチャンって言うんだ。よろしくね。中学、いや、小学生だよね、いま何年生?」


 にっこり笑顔で聞いてきたケントくんとやら。


 ふっ。


 ――――小学二十五年生って言ってやろうかしら。


「は、はは…。ケントくん、こう見えてうたちゃんは君より年上だよ」

「………………………………………嘘」

「三十一歳よ」

「ワーオ…………」


 ケントくんは首を振りながら「アメイジング」とつぶやいた。




 どこかで会ったことある?


 うーーーん。


 肩に着くくらいの金髪は緩く波打っていて、肌にはシミはもちろん、ホクロすらひとつもない白い陶器のようで、くっきり二重で宝石みたいな透き通った眼は青く、定規で引いたかのようなスッと伸びた鼻筋に、まっすぐ引き締まった口元、長ーい手足。


 ………うん、知らない。覚えてない。

 こんな王子様みたいな人、なかなか忘れないと思うんだけどな。


「三ヶ月間よろしくね。うたチャン」












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