お団子としっぽ

 やってしまった…。

 昨夜は、そのまま朝までぐっすり眠ってしまった。首やら腰やらが痛い。どっこいしょと、とりあえず顔を洗いに洗面所へ行く。


「あっはははははっ」


 思わず爆笑。


 鏡にはどこかで爆発に巻き込まれたかのような髪型の私がいた。乾かさずに寝ちゃったからなぁ。…ほんと、“実験に失敗した博士”みたいな頭だ、ふふふ。


「ふぁ〜あ」


 んー、朝ご飯なに食べようかなぁ。


 歯磨きは昨夜の分をプラスして、いつもより時間をかけた。






 自分の前世を思い出したのは、今年の商店街振興組合の新年会で乾杯をした時だった。一瞬混乱したけれど、わりとあっさり納得した。ああ、そうだったと理解したのだ。“しっくりきた”と言ったほうがいいかもしれない。


「どうしたんですか?祐介先生、乾杯したまま固まってますよお?伍郎さんも」


 隣のテーブルでりりかちゃんの声がする。見ると祐介くんと伍郎くんはグラスを合わせたまま動かない。


「あ、隼くーん!追加で瓶ビール二、三本頼むよー」


 向かいに座っているイザワミートのおじさんの大声で、はっとするふたり。そして何事もない様子でビールに口を付ける。


 どうしたのかしら、ふたりとも。

 タイミング的に、もしかして私と同じで思い出しちゃった、とか?…あり得る?

 うーん、わからん。聞くのも変だし………。


 ま、いいか。


「おーい、隼くーーん!」

「はい、すぐ行きますー」


 誰かビールをこぼしたのか、向こうでテーブルを拭いている隼くん。


 ピンポーン。


 手を伸ばし、おじさんの目の前にあるボタンを押した。こっちのほうが早いし。

 そもそも隼くんがみんなの注文を聞く必要はない。


「うたちゃん?何?なーに押したの?」


 呼び出しベルだと言おうとした。すると――――。


「こらっあんた!なに隼くんをあごで使ってんだい。飲みたいんだったら自分で注文しな!」

「ひぇっ」


 うしろから奥さんの一喝。


 苦笑いの隼くん。祐介くんは澄まし顔。伍郎くんやりりかちゃん、みんなの笑い声が響いた。






「あっつー」


 見上げると、濃い青色の空にぷかりと白い雲がひとつ浮かんでいた。向かいの公園では、セミたちが競い合うように鳴いている。

 ドライヤーのような温い風を浴びながら、自転車にまたがって店に向かった。


 来夢の前に置いてあるベンチにはいつも一緒に座っているじーさまはおらず、たまちゃんだけが座って寛いでいた。おそらくじーさまはデイサービスに行っているのだろう。


「たまちゃん、じーさま早く帰ってくるといいね」


 頭をなでるとゴロゴロと鳴いてくれた。人間に換算すると70歳以上らしいたまちゃん。まだまだ長生きしてね。


「ねぇたまちゃん。毛繕いのコツある?頭のお団子、失敗しちゃって。まぁいつもなんだけど。今日はなの、1.5倍サイズになっちゃったのよ」


 ゴロゴロ。


「まぁそう言わずに。ここはひとつ“ぢゅ〜る”でお願いしますよー」


 ゴロゴロ。ワシャワシャ。


「くくっ」


 すぐうしろで聞こえた笑い声に驚いて振り向いたら、まさかの金髪の外国人男性。

 もひとつ驚いた拍子に、髪の圧に耐えられなくなったピンが飛んでいき、頭の“博士”が現れて、それを見て驚いたたまちゃんの尻尾がぶわっと膨れた。
















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