赤と白
「はーい!わたし、今年は
料理をきれいに平らげたりりかちゃんは、片手に湯吞み、もう片方は人差し指と中指と薬指の間に見えないサイコロ、ではなくて見えないタピオカを挟んでいる。
「いいね!りりかちゃんの姐さん姿、きっと似合うよ。ん?でもそれ、一カップ分のタピオカ全部入れるの時間かかりそうだね」
伍郎くんがそう言うと、「それはほら、こうやって――」と言って、りりかちゃんは両手の甲をこちらに向け『それではオペを始めます』風な手つきをしてみせた。十本の指の間にある見えないタピオカ。
「…………………………」
タピオカ。タピオカ…。…なんか似た名前の動物いなかったっけ。柚子が浮かんだお湯に浸かってまったりしてる…。そうそう、カピバラ!――タピオカ。カピバラ。ほら似てる似てる。はず?……タピオカ。カピバラ。アルパカ。オカリナ、は、ちょっと違うか。ラビオリ、はアリ。ブタバラ、ギリセーフ。ほかなんかあったかな。どこがと言われると…雰囲気?語呂?4文字か?そういえば、いつも4文字を叫んでる芸能人いたなぁ。名前は…えーと…その人の真似をする芸人もいて、美容家で、ニューハーフ……。あ。
「ドンダケー!」
「うたさん、ツッコミ遅いよー。しかもそれ?あはは」
「…なんか何か違う気がするんですけどお。うーん」
それからも三人でスタンプラリーの話題に花を咲かせていると、いきなり格子戸が隣のスナック“ミラクルハニー”に突き刺さりそうな勢いで開くと同時に、
「うたさん!生!二、三杯いっぺんにちょうだいっ」
ハスキーボイスの大きな声が店内に響いた。
「「「!!!!」」」…見事にみんな揃って、体がびくっとなってしまった。
見ると、そこには怒りで頭から湯気が出ていそうな美女が。
「もお茉衣子さん。びっくりしたあ~。伍郎さんも、ねぇ、あら?漏らしちゃいました?」
「?…あっ!ちっ違うよーっ」
「あはっ。わたしのお茶でした。こぼしちゃった。ごめんなさあい、伍郎さん」
急いでおしぼりを持っていくが、いかにもすぎるポイントがお茶色に濡れている。
「いいよいいよ。気にしないで大丈夫だよ」
「白衣貸して。そこだけ洗うわ。ごめんね、茉衣子ちゃん、ちょっと待っててくれる?」
すると、「わたしがやりまーす」と言って、りりかちゃんが白衣を受け取り、洗面所に向かった。
「私がやるわよ。りりかちゃん、座ってて?」
「大丈夫ですよぅ。うたさん、それより、早く茉衣子さんに生ビール持っていって、酔わせて寝かせちゃったほうがいいんじゃないですか?ほらあ」
りりかちゃんの目線を追って振り返ると、ガタガタと音がした。
「あまり飲みすぎないほうがいいのでは?ますます酒やけして、園児に怖がられますよ」
さきほど外れたらしい格子戸をはめ直してくれながらそう言い放ったのは、商店街で
「酒やけじゃないわっ。子供のころからこの声よっ」
そう言ってから、自分が外してしまったのに気づいて「ごめん」と手を合わせる女性は
耳にかけたショートボブがかっこいい透明感のある美人さんで、身長もすらりと高く、私より年下だけど“お姉さま”と呼びたくなる。
「そうですね。あなたはお酒が弱いですし。そもそも、アルコールが声帯に及ぼす直接的な影響はないと聞いたことがありますから。詳しくはネットで調べてください」
どないやねん。
茉衣子ちゃんの殺気を感じた、ような気がした。
「はいっ。茉衣子ちゃん!生ビールどうぞ!」
祐介くんをにらんでいる視線をジョッキで遮る。ささ、こちらへどうぞと奥のカウンターへ誘導すると、茉衣子ちゃんは眉間にしわを寄せながらも素直に従った。
「茉衣子さあん、祐介先生なんかと、もう別れちゃいましょうよう。茉衣子さんだったらぁもっと良い人いますよう」
伍郎くんの白衣を洗い終わったりりかちゃんが茉衣子ちゃんの隣に座った。
「ちっちちちち違うぅうわょっよっっ!!だだっだだだだだだれっ誰っがっががががががっっ…」
壊れたプレイヤーになってしまった茉衣子ちゃんは、顔も耳も首も真っ赤になってて、なんともかわいらしい。
「りりかちゃん。俺と茉衣子はただの幼馴染。腐れ縁。そこのところくれぐれも勘違いしないでくださいね」
対する祐介くんは白。着ているバンドカラーのシャツの白色よりも、りりかちゃんが嫉妬するほどの色白美肌よりも……なにより、祐介くんの周りに漂ってそうな冷気が白い………。――――あくまでもイメージです。
「ハイハイ、ワカッテマスヨー」
りりかちゃんはネイルを弄りながら、まったく心を込めてない返事をした。
両片想い。みんなわかっている。いまここにいるりりかちゃん伍郎くん私はもちろん、商店街の人たちも。
わかっていないのは茉衣子ちゃんと祐介くんだけだ。こんなにわかりやすいバレバレの二人なのに、頑なに認めない。
はぁめんどくさ、とつぶやいたりりかちゃんは黒?
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