第7章 どっちを選ぶ?①
ついにこの日が来てしまった。
朝からそわそわしてしまう。久々に部屋のクローゼットの奥の方にしまっていた箱を取り出す。その中には小さいときに買ったうさぎのぬいぐるみやアクセサリーなどが入っている。捨てられなかった物たちだ。
「懐かしい……」
蓮たちからもらった手紙なども出てきた。
赤ちゃんの時からずっと一緒にいる彼ら。
自分にとって本当にかけがえのない二人だ。ただ、それもいずれは壊れていってしまうものなのかもしれない。
気づいたら、私の中で彼の存在がどんどん大きくなっていた。頭の中は彼のことでいっぱいになっているのだ。女の子と親しくしているのを見て、もやもやした気持ちになる。もっと自分を見ていてほしいと思ってしまう。いつも傍で見守ってくれ、笑わせて安心させてくれる彼。私は自分の気持ちに気付いてしまった。そして、あの時の気持ちも思い出す。
家族のように二人が大事なのは、変わらない。だけど、私が答えを出すことで、これからの関係が変わってしまうのが怖い。
二匹のうさぎを手に取り、じっと見つめる。
丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。すぐに結の声がして、階下が賑やかになる。
「結羽ー。お友達が来てくれたよ」
「お邪魔しまーす!」
結の声と女の子の声が重なる。海未だ。蓮の発案で、今年は友達も招いてパーティーを開くことになったのだ。
私は返事をしてから、うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、箱にしまう。
一階へ降りると海未が飛びついてきた。
「結羽!招待してくれて、ありがとう」
「わっ、海未ちゃん、く、苦しい……」
「あ、ごめん!嬉しくてつい」
「私も来てくれて嬉しい!ありがと」
お互いに強く抱きしめ合う。そんな私たちを結が優しく見つめる。ふと玄関の方から視線を感じ、顔を上げると開けたままの玄関の外から結の幼馴染の春瑠が顔を出した。
「あ、春瑠さん」
「こんにちは」
「春瑠!」
結が嬉しそうに出迎える。春瑠は手にしていた袋を持ち上げた。
「よっ、結。招待ありがとう」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ。お、それはワインかい?」
「そう、年代物を持ってきたよ」
「わぁ、いいね!あ、羽菜に挨拶していくかい?」
春瑠から袋を受け取り、リビングの方を指差す。春瑠は頷き、二人はリビングの方へ姿を消した。海未が抱きついたまま、聞く。
「なんか親子で幼馴染がいるって、すごいよね」
「うん。本当にこんなことってあるんだね」
「でも、なんかいいね」
「そうだね」
お互いに顔を見合わせ、 笑い合う。
すると、聞き慣れた声が再び玄関から聞こえてきた。
「海未姉、人使い荒すぎっ」
「いつものことでしょ」
「蒼空くん、陸空くん!」
何故か大荷物を抱えた海未の弟二人が立っていた。海未が腰に手を当て、彼らの前に仁王立ちする。
「二人とも遅い!あと、文句言わないっ。今日は何の日か分かってるでしょ?」
「はいはい。これ、頼まれたもの持ってきた」
陸空が大きめの包みを海未に手渡す。何だかいい匂いがする。その横でしかめっ面をした蒼空が玄関床に大きな袋を二つ置いた。
「分かってるけど。流石にこれは重いって」
「蒼空も荷物運び、ありがとうねー」
海未が蒼空の肩に手を置く。私は首を傾げながら、そんな姉弟のやり取りを見ていると、海未が振り返ってニッコリと笑った。
「今日はね、陸空が結羽の好きな物を作ってくれたんだ」
「え、そうなの!?」
「はい。腕によりをかけて作ったので、皆さんで召し上がってください」
「えー!ありがとう、陸空くん!嬉しい!!」
陸空は料理が上手い。どんな料理を作ってきたのか、見るのが楽しみだ。ワクワクしながら、海未の手元を覗き込もうとしていると蒼空に声をかけられる。
「あの」
「ん?」
「結羽さん、お誕生日おめでとう!」
「あ、こら、蒼空!まだ早い!!みんなで言う予定なんだから、抜け駆け禁止っ」
すかさず海未が蒼空の頭を叩く。「いてっ」と蒼空は頭を抱え、陸空がそれを見て笑う。この三姉弟のやり取りは見ていて飽きない。つい、私も釣られて笑ってしまう。
そう、今日は私の二十歳の誕生日なのだ。そして、我が家で誕生日を開くためにみんなが集まってくれていた。
「なんだか、楽しそうだね」
タイミング良く、蓮の声がした。みんなの視線が集まり、蓮の後ろからは和真が顔を出す。
「よお、集まってんな」
「桜木くん、上野くん!二人が最後じゃない?ね、結羽?」
「う、うん」
何となく二人と顔を合わせづらい。自分の中で答えが出てしまっているからだろうか。
「た、立ち話もなんだから、みんな中入って」
慌てて、話を変えるようにみんなを家の中に案内して、庭へ向かう。庭にはすでに春瑠と結が支度を整えていた。
「みんな、揃ったかな?そろそろ始めようか」
「あ、俺、焼くの手伝います!」
「僕も」
蒼空と蓮が結の方へ行き、軍手をはめ始める。
「おお!男の子は頼もしいね。ありがとう。和くん、そこのトング取ってくれる?」
「あ、はい!」
和真が立っている近くのテーブルにトングがあり、それを手に彼も火の方へ向かう。すでに炭火などが用意されていて、あとは焼くだけという状態だった。
毎年恒例のバーベキューだ。ワイワイとみんなで楽しめるのが好きな結羽のために、毎年誕生日にやるのが恒例となった。
春瑠と陸空は持ち込まれた料理を並び始める。
「私たちは飲み物、用意しようか」
「うん、そうだね!」
海未が蒼空が持ってきた大きい袋から、ペットボトルを取り出す。他にもお酒類がたくさん入っていた。
「わぁ、これはかなり重かっただろうね、蒼空くん……」
「いいのいいの。男の子だし」
そう言って、海未がペットボトルを開けたので、結羽はコップを持って注ぐのを手伝う。
庭を見渡し、今年はいつもより人数が多くて、口許が緩む。みんなが楽しそうにしている姿を見て、嬉しくなる。いつの間にか、母である羽菜の写真もテーブルの上にあった。こちらに笑いかけているその笑顔がいつも以上に優しい気がした。
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