第5章 まさかのトリプルデート!?②

「はい、じゃあこのペアで屋台巡りね」

 金魚すくい勝負の結果、

 蒼空&結羽ペア、和真&杏子ペア、

 蓮&海未ペアとなった。

 蒼空の圧倒的勝利だった。

「蒼空くんって、こういうの得意なんだね?」

「さすが、蓮斗っ」

 私と杏子が蒼空の持っている金魚が入っている袋を見ながら、口々に褒める。

 蒼空は照れたように頭を掻きながら、

「UFOキャッチャーとかも得意なんだ」

 と言い、私たちはさらに感嘆な声を漏らした。

 その横で、和真と蓮が同時にため息をつく。その様子を見ていた海未は、苦笑した。

「蒼空、昔から器用なんだよね」

「いや、松川さん。それはフォローになってない」

 蓮が即座に反応し、和真は金魚すくいの屋台の斜め向かいにある射的を指差した。

「くっそー。次の勝負はあれだ!射的にするぞっ!」

 だが、それも空しく杏子が彼の腕に絡み、遮られたのだった。

「その前に屋台巡りっ。和真くん、私、あれ食べたいなぁ」

 と引きずるように和真を連れて行く。

 その後を蓮と海未もついていく。

「うちらも見よっか。桜木くん、何か食べたいのある?」

「あー。焼きそばとかかな」

「いいね。行こう」

 そう言いながら、海未が途中で振り返り、何故か私たちに向かってウインクした。不思議に思い、首を傾げていると蒼空に声を掛けられる。

「俺らもあっち見に行こう、結羽さん」

「え、あ、うん!そうだね」

 二組とは反対方向に歩き出す蒼空の後を追う。彼は、私が浴衣で歩きにくそうにしているのに気づき、ゆっくりと歩いてくれた。

「大丈夫?足とか痛くない?」

「うん、大丈夫だよ」

「よかった。結羽さん、浴衣めっちゃ似合ってるね」

「そ、そうかな。ありがと」

 改めて面と向かって言われると、なんだか恥ずかしい。

 今日着ているのは、海未と一緒に選びに行き、白地に大きな花が散りばめられている柄の浴衣だ。帯が紫色で可愛い。

 一方の蒼空は、紺の縦縞模様の浴衣でシンプルなものだ。だが、やはりスタイルがいいので、よく映える。髪型もいつもと違い、前髪を下ろしているので、雰囲気が大人っぽい。

「そういえば、サングラスとかしなくていいの?」

「んー、髪型がいつもと違うからバレないかなぁって」

「で、でも結構、みんなの視線が……」

 周りを見渡せば、女の子の視線が集まっていた。当の本人は気にした風もなく、屋台を覗き見て回っている。

「あ、見て、結羽さん!リンゴ飴!!あ、チョコバナナも」

「ほんとだっ。美味しそう」

「一個ずつ買って、半分こする?」

「そうだねっ」

 つい、甘いものを見つけてテンションが上がってしまい、深く考えずに頷く。

 そんな私を見て、彼がくしゃっと笑った。

「本当、結羽さんは分かりやすいなぁ」

「え、そ、そうかな?」

「うん。……あ、おじさん、チョコバナナとリンゴ飴、一個ずつ頂戴」

「はいよー」

 蒼空が浴衣の袂から財布を取り出す。

 慌てて私も財布を取り出そうとすると、彼の手がそれを制した。

「ここは俺に払わして?」

「でも……」

「いいの、いいの。はい」

 屋台のおじさんから受け取ったりんご飴をくれる。渋々財布から手を放し、それを受け取る。

「蒼空くん、ありがと」

「どういたしまして。あ、あっちにベンチあるから座ろう」

 完全に彼のペースに乗せられているが、不思議と嫌な感じはしない。

 二人で横並びに座り、各々の手にしているものを食べる。暫く無言になったが、その沈黙を破るように蒼空が口火を切った。

「あのさ、結羽さん」

「うん?」

「この前の芸能体験どうだった?」

「すごく貴重な体験だった!誘ってくれてありがと。あと、やっぱり仕事してる蒼空くん、キラキラしてて本当にかっこよかった」

「うわ、まじか。改めて結羽さんに言われると、やっぱり照れるな」

 和真と同じように彼は頭を掻く。

 その姿を見てやはり頭に思い浮かぶのは和真のことだった。

「……結羽さん、少しは俺もアリ?」

 蒼空はチョコバナナを食べる手を止めて、結羽を真っ直ぐに見つめた。

 その真剣な眼差しにドキリとする。

 彼の澄んだ迷いのない瞳に見つめられると胸が高鳴る。

 だが、和真や蓮の時とは違う。どうしても結や春瑠、幼馴染二人以外の男性には緊張してしまう。それに蒼空には、和真や蓮みたいにほっとするような安心感はない。二人といる時と彼といる時とでは、明らかに私の中で何かが違った。

 蒼空のことを少しずつ知っていくにつれて、どうしても私の中での彼は、“親友の弟”にすぎなかった。

 たとえ、どんなに想いを寄せられたとしてもそれだけははっきりと分かった。

「蒼空くん、ごめん」

 私は彼に向かって、頭を下げる。

「どうしても蒼空くんのことは……」

「そっか。やっぱり、あの二人には勝てないかぁ」

 彼は寂しそうに笑う。

 そして、リンゴ飴を持っていた私の手をいきなり引っ張った。

「えっ!?」

「これぐらいは許されるよね」

 そう言って、私の食べかけのリンゴ飴に齧りつき、いたずらっ子のようにウインクした。そのままパリパリと飴の嚙み砕き、美味しそうに食べる。

「このリンゴ飴、あっま」

「あ、あの蒼空くん!」

「大丈夫だよ。俺、意外と切り替え早いから。それより、結羽さんの気持ちもはっきりした方がいいんじゃない?」

「私の気持ち……」

「あんまり男を待たせるのは、罪な女の子だよ」

 蒼空は苦笑しながら、もう一度私の持っているリンゴ飴に齧りついた。

 丁度その時、他のペアが蒼空たちのところへ集まってきた。

「蒼空、次は射的で勝負だっ」

 和真が腕まくりをしながら、蒼空に勝負を挑む。

「俺、和真さんには負ける気がしないっす」

「んだとっ!?」

 二人は兄弟のようにじゃれ合いながら、射的の方へ向かった。その後を蓮が呆れたように二人の仲裁に入りに行く。そんな三人を女子組は笑って見ていた。

「上野くんって、たまに子供っぽいところあるよねー」

「そうなんだよね。それが可愛かったりするけど」

「お?幼馴染の余裕ってやつ??」

 杏子がすかさず反応した。

「あ、いや!そういうわけでは……」

 慌てて訂正しようとするが、二人はニヤニヤしながら聞く耳を持たない。

「てか。蓮斗くんとは何話したの?」

 ここぞとばかりに杏子が質問責めしてきた。

「え、えっと……」

 思わず口ごもると横から海未が小さく呟いた。

「結羽、返事したんだね」

「え?」

 海未の言葉が聞こえなかったのか、杏子が首を傾げる。

 だが、海未は蒼空たちの方へ視線を向けたまま、静かに言う。

「何か吹っ切れた顔してるから、蒼空」

「海未ちゃん……」

「結羽、ありがとう。ちゃんと考えて、答えを出してくれて」

「ううん、こちらこそなんか」

「謝らなくていいよ」

 海未の指が唇に触れ、何も言えなくなってしまう。

「蒼空はまた一歩、大きい男になった思うから」

 海未がやっとこちらを見てくれ、微笑んだ。その笑みを見て、どこかほっとする。

 一人、杏子だけが状況を掴めておらず、騒いでいた。

「ちょっと!二人して、何の話よ?お姉さんにも分かるように話してちょうだい!!」

「うちの弟のファンじゃなくなったら、話しますねー」

「え、どういう意味よ!?」

 海未が笑いながら、杏子の質問から逃げるように走っていく。

 そんな二人の後を小走りに追いかけた。


 そして、それからも男性陣の勝負は続き、気づけば祭りも終わろうとしていた。

「そろそろ帰ろうか」

 蓮の言葉を合図にお開きとなる。

「松川姉弟、送っていこうか?」

「え、いいんすか!?」

「車だし、全然いいよ」

「じゃあ、ありがたく」

 蒼空が姉の海未の言葉を待たずに、蓮の車に乗りこむ。

「こら、蒼空!図々しいよ」

 と言いつつも、海未も乗り込んでいる。

「和真は?」

「俺、先輩送ってくるわ」

 和真が蓮の問いにすぐに答え、二人は駅の方へ向かった。

 その後ろ姿を見つめ、どこか寂しくなる。途中、ペアを交代して和真と組むことがあったが、気まずいままだった。完全に前のような元に戻るタイミングを失ってしまっている。

「結羽ちゃん」

 いつの間にか、蓮が助手席のドアを開けて待っていてくれた。

「あ、ごめん!蓮くん、ありがとう」

「疲れた?」

「ううん、大丈夫だよ。友達とこういうの久々で、楽しかった!」

「そっか、それはよかった」

 素直に思ったことを伝えると、彼は優しく微笑んだ。そして、いつものように手を取り、車に乗るのを手伝ってくれた。




 私の誕生日まで後、十日。

 蓮があの【約束】を覚えていたということは、きっと和真も覚えている。

 私はどっちかを選ばないといけないのだろうか。

 ただ、二人といつまでも一緒にいたいだけなのに―――――。










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