第5章 まさかのトリプルデート!?①
1日モデル体験をした日から1週間後。
私は目の前の光景に、頭が追い付かなかった。
「え、なんでいるの……?」
思わず口をついて出た疑問。今日は蓮と2人で出掛ける予定だった。
だが、目の前には蓮以外に男女4人がいる。
「みんなで出掛けた方が楽しいじゃん?」
「蓮に言われて来たら、こうなってた」
ウインクして答える海未とその隣には和真。2人は浴衣を着ていた。この2人がいるのは、全く問題はない。もっと驚きなのが、更に思わぬ人達がいたのだ。
「海未姉に誘われて」
「蓮斗に会えるって聞いて!」
なんと、親友の弟の蒼空と和真のバイト先の先輩である杏子がいた。この2人も浴衣を着ている。
驚きのあまり、何も言えない。どうしてこうなったのか、説明を求めるように蓮の方へ目を向けて問う。彼は、額に手を当てていた。
時を遡ること、5日前――――。
蓮は、この状況をどうしたものかと頭を悩ませていた。というのも、モデル体験をした日を境に幼馴染の結羽と和真の様子がおかしいのだ。何があったか、詳しくは知らないので余計に口を出すべきか、迷う。
「はぁ」
思わず、ため息がこぼれる。タイミングよく、部屋に入ってきた秘書が耳敏く反応した。
「いかがされました?社長」
「いや。ちょっと身内事でね……」
「頭を抱えるほどのことが?」
彼女は少し首を傾げたが、すぐに話題を変える。
「頭を抱えているところ申し訳ないのですが、社長にお客様です」
「この時間に?誰か約束してた?」
「いえ。結羽さんのお友達の松川様です」
「どうして会社に……。とりあえず、通して」
彼女が部屋を出てすぐに、見知った顔が現れた。蓮は、先ほどまで目を通していた資料をファイルにしまい、笑顔で出迎える。
「松川さん、こんにちは」
「桜木くん。急に会社に押しかけてごめんね。大学だとなかなか会えないから」
申し訳無さそうな表情で、彼女は部屋に入ってきた。
「ううん。丁度、この時間は何も予定入れてなかったから大丈夫。何かあったの?」
海未をソファに座らせる。秘書がすぐにお茶を持ってきて、静かに部屋を出て行った。その姿を見送り、彼女が口を開いた。
「結羽と上野くんのことなんだけど……」
「ああ、僕もちょうど頭を悩ませてるところだったんだ」
「あ、本当?あの2人、あれ以来なんかギクシャクしてて」
海未がお茶の入ったカップを手に、困ったような表情を浮かべる。どうやら、大学でもあまり会話がないらしく、一緒にいる海未は息苦しく居心地が悪くて、困っていると。なんだか、申し訳ない気持ちになる。2人には早く元の仲良しに戻ってもらいたいと思っている。
「その件で、今日来たの?」
「そう!あの2人が前みたいに仲良くなれるように何かできないかなと思って」
「なんか、身内の問題なのにそこまで考えてくれてありがとう」
「え、何で?親友だったら、仲良くなってもらうために何かしたいと思うのは当然じゃない?」
当たり前のように“親友”と言ってくれる彼女に、嬉しい気持ちで一杯になる。結羽は、本当に素敵な人に出会えたと思う。そのようなことを思っていると、海未の口から思わぬ提案をされた。
「そこでね。あの2人も誘って、お祭りに行かない?」
「祭り?」
「そう。今週末に、
鞄からA4ほどの大きさのチラシを取り出し、目を輝かせながら彼女が机の上に置く。そのチラシを手に取り、読み上げる。
「梅雨祭り。6月27日、28日に開催。場所は〇〇駅前の商店街、××公園。……あ、思ったより近場でやっているんだ」
「そうなの。アクセスもいいし、どう思う?」
「今週の土日だね」
そう言って、何気なくカレンダーを見たときに、あることを思い出す。祭りがやっている日……、結羽と2人で出掛ける約束をしていた日だった。
カレンダーを見つめる蓮が固まっているのを見て、海未が慌てる。
「あ、もしかして仕事とかだったりする?」
「いや……」
彼女に言おうか言うまいか、少し躊躇する。だが、2人の仲を早く元に戻したいという気持ちもある。2人で出掛けるのは、また別の日に行くこともできる。今回は、こっちを優先すべきだなと思い、意を決する。
「大丈夫、空いてるよ。2人には僕から言っておくよ」
「本当?ありがとう。あ、あとさ……」
今度は、彼女の方が口ごもる。とても言いにくそうにしているので、敢えてこちらから質問する。
「誰か他に誘いたい人いる?」
その質問に少しほっとしたような表情をしながら、彼女は口を開いた。
「弟の蒼空も誘っていいかな?」
「え……?」
「決着つけさせたいんだ」
「決着」
復唱した言葉に相手は頷く。これまた急な話である。彼女の弟が、結羽を好きなことは知っているし、先日のモデル体験で少し進展?があったことも何となく察していた。
「桜木くんの前で、こういうこと言うのもアレなんだけど……」
「なに?」
「結羽は、少なくとも蒼空より上野くんの方が好きだと思う」
「どうして、そう思うの?」
海未の言う言葉にドキリとするが、平静を装う。彼女が言うには、結羽の蒼空に対する眼差しと和真に対する眼差しが違うらしい。明らかに、和真を見る目は恋している目だと言う。本人は、恐らく自覚はないだろう。
だが、姉としてはしっかりと当たって砕けて欲しいそうだ。
「なかなか辛辣な……」
「そうやって経験して、良い男になってほしいの」
そう話す海未の表情からは、弟を大事に思う姉の顔をしていた。その表情を見て、蓮も弟の勇姿を見たいと思い、祭りに来ることを承諾した。
「5人だと奇数でなんかキリが悪いね。もう1人、女の子呼ぶ?」
「といっても、誰がいる?他に」
「うーん。うちらと共通な知り合い……」
しばらく、2人の間に沈黙が生まれる。頭に思い浮かんだのは、自分の秘書。だが、休みの日までプライベートに付き合わせるのは申し訳ない。他に知り合いというような女性は、自分の周りにはいない。その時、記憶の隅である場面が思い出された。
「「あ!」」
同時に声が重なる。彼女も思い当たる人が思い浮かんだらしい。表情から察するに同じ人を思い浮かべていそうだ。
「もしかして……」
「上野くんのバイト先の」
「「先輩」」
また、声が重なった。そうだ。唯一、共通していた人がいた。特にちゃんと話したことはなかったが、会ったことはある。申し分ないだろう。和真もいることだし。後は、どう誘うかだ。
「上野くんに誘ってもらうしかないかな?」
「そうだね。確か彼女、弟くんのファンじゃなかったかな?」
「蒼空の?あ、そうだ!蓮斗って蒼空の芸名でのこの前呼んでた気がする……」
「彼に会えるって言えば、彼女は来そうだな」
蓮が顎に手を当てながら、和真へどう誘うかを考え出す。海未が座りながら、頭を下げた。
「ありがとう、桜木くん。お願いします!」
こうして、週末に出掛けるメンバーが決まったのだった。
そして、今、まさかの異色メンバーが勢揃いしているのだ。
「ま、いいじゃん!お祭り、楽しもう!!」
海未が先陣を切って歩き出した。その後に和真や蒼空が続く。杏子もさりげなく、和真と蒼空の間に入り込んでいく。その姿をぼんやりと見つめる。
「僕たちも行こうか、結羽ちゃん」
「あ、う、うん」
「今度また、2人で出掛けよう?」
蓮がそっと私の手を取り、優しく耳元で囁いた。その距離の近さに頬を赤らめながらも結羽は頷く。
「あ、見て!金魚すくいあるよ!!」
「懐かしいな」
海未と和真が金魚すくいの屋台を見つけ、歩み寄っていく。
「そしたら、金魚すくい対決とかどうっすか?」
蒼空が浴衣の袖をまくり、気合い充分な状態で提案をした。それに和真がすぐに乗る。
「おもしれぇ。やろうぜ!蓮もやるだろ?」
「対決して勝ったら、何があるの?」
「んー、あ!勝った順に一緒に屋台を回りたい相手を選べるとかどうです?」
「それ!それいい!!」
蒼空の案に、海未が勢いよく反応した。その勢いのよさに目を丸くしつつ、男性陣は頷いた。
「頑張って!ほら、結羽も応援してあげなよ」
海未に肩を叩かれ、私も3人にエールを送る。
「が、頑張れ!3人とも!」
「っしゃ!負けられねー」
何故か一段とやる気に満ちる男性陣。
傍らで女性陣は、祈るように見つめる。
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