~58~ 友莉とフランク

「話したのか?」

 ロビーで待っていたフランクが電話を掛けたのは友莉だった。

 月の光で羽琉とどんな話をしたのか気になっていたフランクは、友莉にすぐさま訊ねる。

【いずれ分かることでしょ?】

「……」

【羽琉くんもエクトルが知ってるって気付いてた。ただ確証がなかっただけ。そんなモヤモヤした気持ちを持たせたままの方が辛いと思わない?】

「……友莉の言う通りだ。小田桐さんの心身に負担になるだけだな」

 素直なフランクに友莉は、しょうがないといったような溜息を吐いた。

【あとは2人がどんな答えを出すかね。私としては羽琉くんにフランスに来てもらいたいけど】

「来るさ。小田桐さんの表情がそう言っていた」

 確信を持って言うフランクに、ふっと笑った友莉は【そう】と短く返した。

【フランスに着いたら一番に羽琉くんに会いたいわ】

「今回の功労者は友莉だ。エクトルも文句は言わないだろう。日時が決まったら一番に連絡する」

【了解】

 くすくすと笑う友莉にフランクも苦笑を返す。

 情けないと思いつつも友莉の気宇壮大な人柄にフランクはいつも助けられていた。今回のように行き詰ると思わぬ視点から助言をくれるので、フランクは頭が上がらない。

 「深く考え過ぎなのよ」と友莉によく言われるが、エクトルの補佐として動くためには深慮遠謀は必要なスキルだ。だがそれは会社の役割としてであって、プライベートではもう少し臨機応変に緩和させなければならないスキルなのかもしれない。

「友莉」

【なぁに?】

「いつもありがとう」

【……どういたしまして。フランクも、いつもご苦労さま】

 労いの言葉を掛けてくれる友莉に改めて感謝の気持ちが込み上げる。

 自分の選んだ相手が友莉で本当に良かったとフランクは心から思った。

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