~59~ 恋人紹介
フランクがエクトルから呼び出されたのは、友莉との電話を切ってから10分程経った頃だった。
ホテルの部屋の玄関口で出迎えたエクトルが「恋人のハルだ」とフランクに紹介する。
丸く収まったのだと見て取れる雰囲気の中、改めて羽琉を紹介されたフランクは軽く頭を下げた。
「改めましてフランクです。エクトル共々、宜しくお願いします」
「小田桐羽琉です。先程はありがとうございました」
「いいえ。友莉が早く小田桐さんに会いたいと言っていました」
「……僕も会ってお礼が言いたいです」
「私もだ」
2人の会話にエクトルも入ってくる。
今回のことに関しては友莉の助言なくしては解決しなかったと思っているので、エクトルとしては感謝してもし足りない思いがしている。
ふっと笑うエクトルの表情が、朝とは打って変わって晴れやかなことにフランクは安堵した。憔悴しきっていた時の面影が微塵もない。エクトルにとって羽琉という存在がどれほど大きいのかを改めて実感しつつ、フランクは2人の後に続いて部屋の奥へと入った。
「ところで、小田桐さんはエクトルと一緒にフランスへ行かれる決心はされたんですか?」
テーブルに3人分の紅茶を運びつつ、フランクが訊ねる。
「あ……、えっと」
「昨日も言った通り、ゆっくり考えて良いですよ。私たちの帰国に合わせる必要はありません」
言葉を詰まらせた羽琉に、エクトルがフォローするように告げる。
それに対し、フランクも「そうですね」と同意した。
「一生を左右することなので、ちゃんと悩んで答えを出して下さい」
「……」
2人の穏やかな表情を見つめつつ、羽琉は唇をキュッと締めた。
渡仏について悩みはした。
エクトルが自分の過去を知っているかもしれないという不安に駆られ、途中で思考が脱線してしまったが、それでも結論を出せるところまで考えていた。
それを正直に話して良いかどうかで羽琉は今悩んでいた。
「焦ることはありませんよ。私はいつまでも待っていますから」
無言でいる羽琉を気遣うように、エクトルが肩をポンポンと叩く。
そろそろと羽琉が顔を上げると、優し気に細められたエクトルの碧眼と目が合った。
その目から伝わる想いに心が温かくなる。
日本に滞在中、エクトルはいつも羽琉の都合に合わせてくれていた。余裕のある来日期間だったのかもしれないが、他人に合わせて動くということは振り回されることと同意だ。精神的に辛い時もある。
それに自国に帰った後、多忙なスケジュールをこなしているであろうエクトルに、いつまでも羽琉のことで気を揉ませてはいけない。
そう思った羽琉は、ここで正直に打ち明けることにした。
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