~48~ 優月との出会い
来週に差し迫った退所の準備のため、今日から優月との外出はなくなった。その代わり羽琉の部屋には今まで通り遊びに来ると言っていたので、退所までは施設内で会うことになった。
いつものようにワンコールで電話に出たエクトルをいつもの公園で待つ間、羽琉は優月との思い出を回想していた。
出会った当初、優月は何かに怯えるような眼差しをしていた。
『初めまして。小田桐羽琉と言います』
初めて羽琉が手話で挨拶した時の優月の驚いた表情は今でも鮮明に思い出せる。会話をしていく中で少しずつ怯えの眼差しは消えていったが、それでも優月は、しばらく羽琉に心を開かなかった。
仕草や表情の硬さは何らかの事情があるのだと悟ってからは、その傷を少しでも癒せないかと羽琉も頭を悩ませた。だがそうしたところで何ら解決策は見つからず、ただ共に時間を過ごすことしか出来なかった。それでも次第に笑顔を見せてくれるようになったことがすごく嬉しかったのだが、もしかしたらそれは自己満足に過ぎないのかもしれない。
優月はずっと羽琉に気を遣っていた。
それは優月が持っている本来の性格の良さとは違い、人から嫌われないようにするための過剰な気遣いだったように思う。
もう少し上手く接することが出来ればと悔やまれるところがあるが、これからは養子先である叔母夫婦に任せれば良いのかもしれないと考えを改めた。
羽琉に出来ることにも限界がある。もし自分の限度を超えて接してしまったら、優月はもっと遠慮してしまっていただろう。そんなよそよそしい関係は悲しいだけだ。
自分の接し方が正しかったかどうかは分からないが、それでも羽琉の前で笑ってくれた優月の笑顔は信じていたいと羽琉は思った。
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