~26~ 悩み事 考え事
エクトルと別れてから施設の自室に戻った羽琉は、昼食を摂った後、部屋に遊びに来た優月とクロスワードをして過ごしていた。
タテの欄を一生懸命解いている優月を微笑ましく眺めつつ、エクトルと過ごした午前中のことを思い出す。
エクトルのように人を見る目があるわけではないが、羽琉の中でのエクトルの人となりは、ほぼ確定しているような気がしていた。エクトルの自分に対する気持ちも、多分嘘ではないだろう……と思う。それを信じたいと思う気持ちもある。
だが自分にそれだけの価値があるのだろうかと疑問があるのも正直な気持ちだ。エクトルに釣り合うだけのものが自分にあるのだろうかと。人付き合いが苦手だからか、そういう評価を人から受けたこともないため、自分の長所というものが羽琉には分からなかった。逆に過去の出来事から短所ばかりが脳裏にちらつき、尚更自己嫌悪に陥る。
『はるくん? どうしたの?』
いつの間にかクロスワードの本から顔を上げていた優月が、羽琉の肩を叩き心配そうに訊ねてきた。
ハッと我に返った羽琉が『ごめん。考え事してた』と苦笑して答える。
『悩み事?』
優月から続けて問われ、羽琉は思わず口を噤んだ。
優月のように優しい子なら好かれるのは分かる。優月の笑顔は伝染するため、気が塞いでいる時も羽琉はすぐに笑うことが出来ていた。そんなふうに人を笑顔に出来る優月はすごいと思っている。
『悩み事と言うよりは、自分で考えなきゃいけないこと、かな』
優月はまだ心配顔だ。
『それは、はるくん一人で考えなきゃいけないこと?』
何とか手助け出来ないだろうかという優月の優しさが窺え、羽琉は思わず顔を綻ばせた。
『しっかり考えなきゃいけないことだと思ってる。でももし迷ったりしたら優月くんに聞いてもらおうかな?』
頼られていると感じた優月はパッと表情を明るくすると『うん』と勢いよく肯いた。
そんな優月に羽琉も微笑み返す。優月といると自分も優しくなれるような気がして羽琉はとても心地良かった。
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