~6~ 脳裏の金糸

『……』

 地面の上に花ごと散ってしまった桜を探していた優月は、ふと顔を上げた先に気になるものを見つけジッと凝視していた。後ろ姿だったがキラキラしていて綺麗だった。その姿が消えるまで見続けていた優月は、羽琉から肩を叩かれたことで我に返った。

『どうしたの?』

 小首を傾げる羽琉に、優月は『きれいなもの見つけた』と満面の笑みで答えた。

『綺麗なもの? 桜じゃなくて?』

『男の人の髪の毛』

 意味の分からない羽琉は『髪の毛?』と眉根を寄せて怪訝な表情になる。

『すごくきれいだったよ。金色でサラサラだった』

『……』

 金色……と言われ羽琉が思い出したのはエクトルのことだった。外出する前に思い出したからだろう。それがなければ若者が美容室などで染めた金髪だと思っていたに違いない。

 いや。金髪だからといってあの人だったという確証もないけど。

『外国の人かな? 背が高かったよ』

 続く優月の言葉に、疑念が確信に変わったような気がした。

 もしかして半年後に会おうと言ったことを憶えていたのだろうか? それで僕に会いにここまで来たのだろうか? いや、まさかな……。

 仕事のついでだろうと思っても、羽琉は申し訳ない気分になった。

 でもそうだとしたら声を掛けなかった理由が分からない。優月といたから自分に気付かなかったのだろうかと無意識に眉を顰める。

『はるくん? 難しい顔してる。どうしたの?』

 優月に訊ねられ苦笑した羽琉は『大丈夫。何でもないよ』と答え、優月が見つめていた公園の出入り口をそっと見つめた。


「お帰りなさい」

「ただいま帰りました」

『ただいま』

 一時間経って帰所した羽琉と優月は、受付で出迎えてくれた笹原に挨拶をし、拾った中で一番綺麗な桜の花を笹原に渡した。

「えぇ~、すごく可愛い。ありがとう」

 笹原の笑顔に優月はご満悦だ。

「携帯電話、お返しします。ありがとうございました」

 羽琉から携帯電話を受け取った笹原は、受付のカウンターにある充電器にそのまま差し込む。

「いつもと変わりはない?」

「はい。優月くんも特に変わりはありません」

「そう。じゃあ二人ともお部屋に戻っててね」

 優月は外出後に熱を出すことがあるので、帰ってきてから必ず検温することになっている。ちなみに羽琉は体調に変化があった時だけ計っている。

『じゃあね。はるくん』

『またね。優月くん』

 途中まで一緒に行き、分かれ道で手を振って二人は自分の部屋へと帰った。

「……」

 自室に帰ってからも思い出されるのはエクトルのことだ。

 会う約束をしていたわけではないので、会わなかったとしても罪悪感を抱く必要はないと思うのだが、どうも気になって仕方ない。

 重い溜息を吐いた羽琉は持っていたバッグをオーバーテーブルの上に置き、自身もベッドの上に座った。その途端どっと疲れが押し寄せる。フラッと傾いた体を羽琉はそのままパタリと横たえた。

「自分が言ったことを守らないような人じゃないと思うけど……」

 半年前、たった十数分会話をしただけだったが、何故かそんな気がした。

 もしかしたらそれは表向きの顔なのかもしれないが、仕事関係や友人でもない羽琉に世辞や社交辞令を言ってもエクトルに何の得もない。ということは、羽琉に言ったことは本心だった可能性が高いということになる。

 また無意識に溜息が漏れる。

 気になると引き摺ってしまう自分の性格を知っているので、取り合えず明日も同じ時間に公園に行くことにし、深く考え込もうとする思考を止めることにした。

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