~4~ 淡紅の桜
『あぁ、昨日ちょっと雨が降っちゃったから、桜が散っちゃったね』
公園に来て優月が残念そうに放った第一声(手話)に羽琉も苦笑した。
ただ小雨だったためか、まだ枝に桜の花弁はたくさん残っている。満開とは言えないが、6分、7分くらいは咲いていると言って良いだろう。
『一昨日は綺麗な桜がたくさん見れたのに』
満開だった一昨日とどうしても比較してしまう優月に、羽琉はふわりと微笑むと優月の前に腰を下ろした。
『でも僕は桜の儚さって好きなんだ』
優月は『はかなさ?』と小首を傾げる。
『桜は春の訪れを教えてくれる日本の四季の象徴のようなもので、種類の多さで僕たちの目を楽しませてくれたりするけど、雨が降ってしまえば一瞬で散ってしまう儚さがある。でもそんな散り方がすごく潔くて、僕は好きなんだ』
優月は難しそうな顔をしている。
『でも散っちゃったらさびしいよ?』
『そうだね。でもね、散った後も葉桜って言って、初夏くらいまで楽しませてくれるんだよ。種類によっては秋から冬くらいに咲く冬桜なんてのもある』
『そうなの?』
『散っちゃうのは寂しいけど、だからこそ咲いてる桜は綺麗で貴重で大切だと思わない?』
『……そうかも。ずっと咲いてたら、ありがたみとかないような気がする』
相変わらず難しそうな顔をしてはいるが、優月も何となく理解したようだ。少し押し付けになったような気がするが、優月なりに何かを感じてくれたのかもしれない。
そして陽の光の中で二人仲良く頭上の桜を眩し気に見上げる。
その横顔を慈しむように見つめる視線に羽琉はまだ気付かなかった。
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