~0.5~ 好奇心

『エクトル。一つ訊きたいのですが』

 笹原と歩いていく羽琉の後ろ姿を目を細め愛おしそうに見つめるエクトルに、フランクが躊躇いがちに訊ねる。

『なんだ?』

『小田桐さんのことは本気なんですか?』

 微笑んだままフランクに視線を戻したエクトルは、その笑みを深めるように口角を上げた。そして左手首につけているスイス製の高級腕時計を見やる。

『まだ時間はあるな。日本にいる間、彼の情報を出来る限り集めて私の元に届けてくれ』

 命令する口調にその本気度が窺える。

 フランクは軽く頭を下げエクトルから少し距離をとると、自身のスマホを取り出し、どこかに電話をし始めた。

『ハルは嫌がるだろうね』

 好奇心は身を滅ぼすと警告した時の羽琉はすごく苦しそうだった。きっとあれ以上訊ねても羽琉はもう答えてくれないだろう。だとすると自分で調べるしかない。

 羽琉の姿が消えた方向をまだ見つめつつ、不思議だと心中で呟く。

 好奇心は猫を殺す――これは九つの命を持つと言われている猫さえも、余計な好奇心を持ち過ぎると死んでしまうという諺だ。だが羽琉のことに関してだけはエクトルの好奇心が萎えることはないと思う。ここまで興味を惹かれる相手に出会えたことも初めてのことだった。

 羽琉の思う世界をもっと覗いてみたい。それはエクトルにとってすごく新鮮で刺激的なものになるに違いない。

 そう思うと、エクトルは今から胸を躍らせていた。

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