第4話 万事休す

「悪いんだけど、病院まで連れて行ってくれる? 具合が悪くて、もう我慢できないんだ」


 仕事を終え、これから帰りますと電話をしたカミサンの声には元気がなかった。


 早く帰って地元の病院に連れて行ってあげねばと焦った。


 スピードを出しても、恐らく数分も変わらない帰り道。カミサンの身に何が起こってしまったのだろうと、普通に運転はしていたが、気持ちはうろたえていた。


「明日のがんの診察まで、待合室で我慢できるか自信がないよ。頭痛とめまいが酷くて。悪いけど、ここに連れて行ってくれる?」


 カミサンは自分の身体が酷いことになっているのに、私に気遣って、近所の脳外科のスマホの画面を出してくれた。緊急専用と書かれている電話に、早速電話をする。


「すみません、カミサンが頭が痛くて、めまいもひどくて我慢できない状態なんですが、これから看てもらえますか?」

「あ、すみません、これから手術の予定が入ってまして、今日は診察できないんですよ。ごめんなさい。」

「そうですか。救急車呼ばなきゃダメだって事でしょうか?」

「申し訳ないですけど…」

「はい、わかりました。」


 カミサンはあらかじめ脳外科を調べていて、近所にもう一件あるとのことだったので、そこへ連れて行く事にした。


 2つ目の病院は、場所的には信号5つ、車で上手く行けば5分程度で到着するはずの距離にあった。午後は六時半までなので、何とかぎりぎりで滑り込めるかもしれない。一応電話で確認しておこうと、二度三度電話をかけてみるも、診察中なのか、電話は通じなかった。とにかく行かなければと、カミサンを車に乗せてこの病院に向かう。


 信号3つ目を過ぎて、ふと気がついた。


「休診日じゃねぇよな?」

 慌てていると江戸弁が出てしまう。


「ダメだ… 水曜日の午後はやってない…」


 カミサンのスマホの画面には、悲しい結果が表示されていた。

 

「出来る限りはやったもんな。仕方ない、救急車だな」


 Uターンして、自宅へ戻った。



「110番だよな?」

「違うよ、救急車は119だよ」


 やはり慌てているのだろう、判断力が鈍っている。カミサンに教わった119番に電話すると、コールセンターやサポートダイヤルとは全く違う、落ち着いた声の男性が対応してくれた。私もできるだけ落ち着くようにと自分に言いきかせながら経緯を全て話し、救急車の手配をした。


「もうすぐ来るからな、がんばってくれ」

「ありがとう」


 カミサンは入院に向けて準備していた物を確認し、持って行こうとしたが辞めたようで、最低限のカバン一つだけを手に、IKEAで買ったばかりのソファーに横たわっていた。

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