五枚目
この事件は『転校生の彼がカイジンである』という説への反証に、彼がただの人間であるという決定的な証拠になり得ないかと何度も思い返してはみたが、やはり決定打としては欠けている。
彼はあの時、カイジンに対して明確な殺意と敵意を抱いていた。
彼がカイジンであるのなら、同じカイジンであるあのウミウシのカイジンに敵意を向けるはずがない。
クラスメイトだからと私を庇ったのはまだわかる、だけど同じカイジンに手を出す理由はないはずだ。
それなのにあの時彼はカイジンに対して攻撃を仕掛けた、カイジュウではなくカイジンに。
カイジュウならいくら殺してもおそらく彼らにとっては換えがきく存在だ、けれどもカイジンは流石に違うだろう。
だから彼はやはりただの人間で、私の単なる思い違いでただの偶然だと自分を言い聞かせようとはした。
けどやはり、ダメだった。
それどころかあの一連の事件が、彼を人間だと周囲に思わせるための演技であったのではないかとすら思えてしまうのだ。
彼は誰かからカイジンであると疑われていた。
だから仲間と共謀して、仲間に生徒を襲わせ、彼がそれを守りカイジンと敵対することで、その疑いを晴らそうとしていたのではないか、と。
襲われた標的が私になったのが偶然だったのかそれとも意図があってのことだったのかはわからない。
私があの場に居合わせたのはただの偶然だった、しかも普段通りだったら私があの時間帯まで学校に残っていることはない。
おそらくは本当にただの偶然だ。
ただ、もしもあのウミウシのカイジンが私が彼の隣の席の生徒であると知っていたのなら、私の姿を発見した直後にあえて標的に選んだ可能性はなくはないのだろう。
こんなところで私がいくら推測を立てても、きっと正確な答えはわからない。
もしかしたらそう遠くないうちに答え合わせをすることになるかもしれないけれど。
彼に家まで送ってもらった、要するに彼に自分の家がどこにあるのか把握された、というのが不幸の一つであると同時に破滅への大きな第一歩だった。
これさえなければ確実に私は彼の正体に行き着くことはなかっただろう。
ただの何を考えているかよくわからない背高のクラスメイトであると、ただの人間であると少しも疑うことなっただろう。
そうだったら、どんなによかっただろうか。
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