第12話 グループ名

 

 放課後——。


「ここが部室!」

「きったなーいにゃーん!」

「掃除が先かな……」

「だねー」


 アヴェリアにもらった部屋は、まず掃除をせねば使えそうになかった。

 掃除機を借りてきて落とした埃を吸っていく。


(すごいなー、学校に掃除機がある……)


 ある程度掃除が終わると、あとは掃除用ドローンが定期的にこの部屋を掃除するように設定申請をして完了。

 相変わらず近未来。


「で? まずなにするんにゃん?」

「神野先輩に言われてる事をやろう! ダンス!」

「ダンス〜! やってみたいにゃーん!」

「ダンス……踊りの事、だよね……セキュイに出来るかな……」

「二人とも、ダンスした事ないの?」

「うーん、うちで習ったのは『龍奉舞りゅうほうぶ』っていう踊りだにゃー」

「セキュイも……」

「龍奉舞……なんかすごい名前だね」

「龍神様に捧げる舞……だから……」


 なるほど! と、手を叩く詩乃。

 龍神様のかまってちゃんぶりは先程聞いていてとても理解したので、それならば栄治に言いつけられている振り付けも『龍奉舞』を参考にした方がいいかもしれない。


「ねえねえ、その龍奉舞、見せてもらえないかな? 振り付けの参考にしたいんだ」

「いいにゃんよー。でも多分つまんないと思うにゃん」

「うん……」

「え、ええ……」


 確かに音楽もかなりまーったりゆーっくりした曲調だったけれども。

 まさか舞まで?

 そんな、と思いながら荷物の少ない広まったところでエイニャとセキュイは龍奉舞を踊り始める。


「…………」


 いや、踊り? 踊りか? これは。

 二人が踊っているのは、詩乃からするとまるで体操のような……。

 緩やかな動き。両手を前に出し、膝をカクッと垂直にして腰を落とす。

 これはこれでキツそう。

 ではなく、そのまま立ち上がり、両腕は天井へ掲げられ、グーとパーを繰り返したあと片手を真横へ伸ばし、顔を反対に向けて一回転……。

 そろそろ見ているのもこの表現を書いている方もキツくなってきた。


「こんな感じ!」

「うん! じゃあ今の動きっぽいのを取り入れながら振り付けてみるね!」


 詩乃は元気に明るくそう言いながら、それらの動きに似たものを取り入れつつ振り付けを考える。

 さすがにあのままはダメだ、絶対に。


「まずいくつかの簡単なステップから練習してみよう」

「うん!」

「うん……」


 曲がまだないので、本当に基礎だけを二人に教えてその日は終わる。

 しかし、寮部屋に戻るや否や栄治からメールが来ていた。

 内容は非常にシンプル。


『グループで活動するならグループ名考えておいてね』

「…………」


 忘れてた。

 

「グループ名?」

「グループ名……?」

「そう!」


 翌日、二人にメールの事を相談した。

 グループ名。そう、なんでこんな大切な事を忘れていたのだろう?

 個人で活動するのならグループ名は必要ないが、三人グループで活動するなら必須だろう。

 それに詩乃はちょっと憧れていた。『○○○の相賀詩乃でーす!』と自己紹介をするのに。

 仲間と一緒に活動している! と言う感じがするから。

 とはいえ、この世界の文字の読み書きはまだ出来ない。

 二人の意見も取り入れて考えるべきだろう。


「なにがいいかな? やっぱりこの世界の人にも親しまれるような名前がいいと思うんだけど!」

「ネコネコネッコネコネコ!」

「長いから却下……。もっと短いのがいいと思う……」

「う、うん……」

「えー? じゃあにゃんにゃんにゃんこ?」

「一度猫から離れよう、エイニャちゃん」


 そういえばこの世界の猫にはまだ会った事ないなぁ、とぼんやり思いながら二人の出す候補をノートに書き記していく。

 と言っても詩乃の世界の文字を、二人は読めない。

 かと言って端末で打ち込むには、詩乃の知識がまだ追いついておらず、キーボードの文字すらどういう意味なのか分からない。

 梓の通訳魔法のおかげで言葉に不自由しないのはありがたいが、どうせなら翻訳機能もつけて欲しかった。


「どれもいまいちピンとこないにゃぅ」

「グループ名って、どうしても必要なの……?」

「う、うん。わたしの世界にはアイドルっていっぱいいるの。だからグループ名は必須かな」

「「ふーん……」」


 いろんな名前を書き出してみて、猫関連以外で、龍にまつわるような……。


(あ、でも……エイニャちゃんは猫耳カチューシャ部? っていう部活を一人でやってたんだもんね。猫と龍っぽい感じにした方がいいのかな? 猫と龍……猫龍? なんだそれ……)


 頭の中には猫耳のドラゴンが浮かぶ。

 完全になにか別な生物のような……。


「…………いや、これはダメだ……」

「「?」」


 脳裏に一つのアニメキャラクターが浮かぶ。

 ド○ちゃん……いけない、これは引っかかる。異世界といえどなしだ。

 首を振ってノートを見下ろす。


(あれ、この並び……)


 スコンクル……この世界の言葉で集団を意味する。

 イロロン……この世界の猫の品種。

 ツェンドド……この世界の龍神が住む山の名前。


「sweets!」

「「すいーつ……?」」

「そう! わたしの世界では甘いデザート……お菓子っていう意味!」


 顔を見合わせるエイニャとセキュイ。

 それもそうだろう、この世界で甘いものは龍神の『嫌いなもの』。

 しかしそれを逆手に取る。

 詩乃はノートに書いた文字を一つずつ指差して、単語の頭文字を繋げた。

 スコンクル、イロロン、ツェンドド……頭文字だけ繋げればスイツ。

 それを詩乃の世界の言葉に似せるとスイーツ——甘いお菓子。


「甘い……」

「お菓子……」

「そう!」


 エイニャの好きな猫。

 龍神様。

 集団を意味する言葉と、女性アイドルらしさ。

 二つの世界の言葉を交えた、その名前。


「どうかな!」

「いい……いいと思うにゃん! 猫!」

「うん……面白いと思う……。二つの世界の、言葉の意味……。正直お菓子なんて……って思うけど……」

「な、なんて事言うの! お菓子は幸せの象徴だよ!?」

「「ええ……?」」

「!」


 そうか、この二人はお菓子の素晴らしさを知らないのだ。

 龍神様が『嫌いなもの』だから……。


(なんて可哀想なのー!)


 この二人にもお菓子の素晴らしさを伝えたい。

 お菓子は幸せの象徴。

 甘いものは幸せの味。

 なにはともあれ、詩乃は端末で栄治に「グループ名を『SWEETSスイーツ』にしようと思いっています」とメールで報告。

 衣装をデザインしなければいけないから、決まったらソッコーで報告するように言われていたのだ。

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