第7話 いざ新生活へ
「なるほどね! そういう事なら協力は惜しまないわ!」
戻ってきたアヴェリアに再び栄治が色々吹き込んで、そんな約束を取りつけるのに時間はかからず……。
「では、彼女の面倒は見てもらっても構わないでしょうか?」
「もちろんよ! それが我が学園と我が国の未来に新たな事業として、いい形になるのなら!」
「ありがとうございます。じゃあ、とりあえずはこの学園の臨時教師と生徒って事でお世話になります」
「ええ!」
「「…………」」
さすがすぎて詩乃も梓もぽかん顔。
よもやこれほどとんとん拍子に事を運べるとは……あの人詐欺師の才能あるんではなかろうか。
言葉で殺されそうなので絶対言わないけれど。
「必要なものがあれば言ってくれていいわ。でもまずは寮に案内しましょうか! 家具などは揃っているので、生活はすぐに始められるはずだ。ああ、あと事前投資として食堂の食券を今月分渡しておこう!」
「あ、ありがとうございます!」
「エージはアイドルについてもう少し色々話を詰めたいのだが、教員用の寮部屋を確認したあとまた学園長室にきてもらってもいいかしら」
「了解です。俺も『アイドル部』に関しては色々とご相談したい事があるので——」
「ええ! ではそうしましょう! シノ、あなたは明日からうちの生徒として『アイドル部』を盛り上げていってもらうわよ! 『アイドル部』はこれからの産業にきっと革命をもたらすわ! 期待しているからね!」
「は、はいっ! わたし、必ずアイドルになります!」
((噛み合ってない……))
アヴェリアに肩を叩かれ、すっかりその気になった詩乃。
学生寮に連れて行かれると、そこには二人の人物が立っていた。
一人は青い髪の女の子で、もう一人は白い髪の男の子。
この学園の制服らしいものを纏って、対照的な表情をしていた。
「紹介するわ。わたくしの幼馴染み兼親友で生徒会副会長の
「やあやあどうもどうも。青竜ラパマお姉さんだよ。新入生っていうのは君の事かね」
「は、はい! 相賀詩乃と申します!」
「白虎リシンだ」
「俺は梓。よろしくねェ」
「とりあえずこの二人を寮に連れていってあげて。わたくしはエージを教師用の独身寮に連れていってくるから!」
「独身寮なのね……それは知りたくなかったかも……」
「空いているのがそこしかないのだから諦めて」
「はぁい」
栄治、とても複雑そうである。でもまあ仕方ないだろう。実際独身なので。
栄治の事はそのままアヴェリアが連れて行き、残された詩乃と梓はラパマとリシンに預けられた。
ふむ、と四人は一度顔を見合わせ、アイコンタクトのあと……。
「じゃ、部屋に案内するさね!」
「は、はい。よろしくお願いします!」
ウインクされた。
梓は不機嫌そうなリシンに連れられ、詩乃はラパマの後ろをついて女子寮へと入る。
ロビーでコンシェルジュからカードキーを受け取り、まずは左を指さされた。
一階は食堂やラウンジ、談話室、多目的大部屋がある。
食堂の利用時間朝五時から夜の二十二時まで。
ラウンジは二十四時間利用可能。
(この世界も二十四時間なんだ……)
そこは助かる、と思いながら、まるでホテルのような寮を進む。
エレベーターで五階に到着。
赤い絨毯の通路を進み、角部屋にたどり着いた。
「五階は他に生徒が住んでないから、ここは君だけのフロアだね」
「え! そ、そんな、いいんですか?」
「っていうか、基本的に五階は他国から留学生がいる場合しか使われないフロアなんさね。まあ、そんなわけで君にあてがわれたって事さね」
「な、なるほど……?」
「まずは部屋を確認してみて欲しいんだけどね」
「あ、は、はい! 失礼します」
「あはは! 今日から自分の部屋なんだから『ただいま』の方がいいんじゃないかね?」
「あ、あはは…………わあ……!」
広い部屋だった。本当にホテルのような。
どの家具も詩乃の家にあるものより豪華で、少し不思議な形をしていた。
タンスは縦に蓋のような扉がついており、カチリと取手を回すと下に向かって開く。
中は宇宙空間のようになっていて、入っているものが宙に現れたウインドウに表示される。
今入っているのは『制服・ブレザー×2』『制服・スカート×2』『制服・ワイシャツ (夏用)×3』『制服・ワイシャツ (冬用)×3』『制服・リボン×1』『制服・ネクタイ×1』『制服・靴×2』……らしい。
らしいというのは、詩乃は文字が読めなかったのでラパマに教えてもらったのだ。
「ん〜、文字は早く覚えた方がよさげだね〜」
「は、はい。頑張ります」
「まあ、それも明日からにしなよ。今日はとりあえずもう休んで。ああ、でも夕飯になったら呼びにくるさね」
「ありがとうございます……」
頭を下げてラパマを見送り、一人残された部屋を見回す。
パノラマのように見える下の景色を部屋をくりぬいたような窓ガラスから見下ろして、改めてここが異世界なのだと思い知る。こんな事になるなんて……。
(でも、ここで神野先輩に会わなければきっとわたしは覚悟も決められなかった)
そう思うと、休むより頑張りたい。
タンスの中から制服を取り出して、試着してみる。
サイズは詩乃に合うよう服の方が調節してくれた。なんとも不思議な布だ。
まるで不思議の国のアリスになったよう。
「かわいい」
独特なデザインのブレザーに、チェックのスカート、リボン。
ワイシャツは詩乃が着ていたものとよく似ている。
くるりと窓に映る自分を回って見てみると、まあ、なかなかなのではないだろうか。
「! そ、そうだ! 制服にはしゃいでる場合じゃないよ! きょくをつくらなきゃ!」
思い出して、慌てて鞄の中からノートを取り出す。
買ったばかりの大学ノートは、本当なら授業で使う用のものだった。
ベッドに飛び乗り、シャーペンを握るがなにも浮かんでこない。
その時やっと、音符も書けない自分に気がついて絶望した。
(…………一ヶ月で……三曲……)
前途多難どころではない。
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