第2話

 昨日は旅の疲れもあってか、早めに布団に入り、ぐっすりと寝た。そのおかげか今朝は7時には目が覚め、スッキリした気分で朝食を食べる。

「いつまでこっちにいられるの」

「う〜ん、帰ったらすぐ招待状の準備とかもあるし、明日には帰らないと」

「え〜っ、折角帰ってきたんだからもう少しゆっくりすれば」

「そうしたいのは山々なんだけど、まだあっちで色々やらなきゃいけない事も多くて」

「私は地元で結婚しよ」

 妹よ、その前に君は相手を見つけないといけないぞ?

「それで今日はどうするの」

「午前中はこの辺を散歩、かな。午後は住所録とか探さないと」

「お姉ちゃん、なら私も一緒に散歩行くよ。二人で散歩する機会なんてもうないだろうし」

「じゃあ後10分したら出るから」

「了解〜」

 10分後、妹と一緒に家を出る

「どう回る〜」

「先に浄水場から'ムサ北'まで回ろう。時間有ればディスカウントショップまで足伸ばしてもいいし」

「お姉ちゃん知らないんだ。あそこなくなったよ。今はDIYのお店になってる」

 何と!ペンギンのディスカウントショップがなくなっているとは!時の流れの早さに驚きながら、桜橋の袂にある国木田独歩の碑を横目に、浄水場から道を挟んだ遊歩道に出る。

 浄水場は周りが路面より高くなっていて、石垣から上の土手には芝生が貼ってあり、その上に鉄の柵がある。

「ねえねえ、あの土手まだ土筆とれるかな」

「取れるみたいだけど、アクで爪のあいだが真っ黒になるし、軍手するのも面倒だから、もう何年も取りに行ってないよ」

 昔は私と妹で土筆を籠いっぱいに取って帰ると、母が土筆の袴を取り除いてから水に漬けてアク抜きし、それを佃煮にして食べていた。父は酒の肴に、私達はご飯のお供に、毎年食べてた事も今は遠い思い出だ。

 浄水場が切れた先の道路を渡り左に曲がる。そのまましばらく道なりに進むと武蔵野中央公園、そして私達二人の母校、武蔵野北高校、通称"ムサ北"にでる。校門の前には今日もチラホラとカメラを持った人達がいた。皆んなが写真を撮っているのは体育館、某バスケット漫画の体育館のモデルになっているらしい。私が通学していた頃は外国人の人も来ていたっけ。

 ムサ北を過ぎ、信号を渡って左に曲がり、今度は玉川上水から分岐した千川上水沿いを歩く。この時間になると気温が上がって来るが、上水沿いの並木のおかげで暑さはまだない。武蔵野大学を過ぎ、最初の交差点を左に曲がれば浄水場に戻る。これが私の、昔からお気に入りの散歩コースだ。

 家に帰って昼食をたべ、一休みしたら自室に戻って小学校からの住所録を取り出して、招待客を見繕う。それだけならすぐ終わる作業なのだが、ついつい当時の事を思い出してしまい、中々仕事が進まない。家の不用品を整理する時と同じ感じ、と言えば伝わるだろうか。そんなこんなで作業が終わった頃には西の空がオレンジ色になっていた。

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