第22話 思い出す
リリアローネさんから魔法道具をもらって数日。
今日は、三人の予定があったので採集に行った。今はその帰り道である。
「やっぱり、魔法道具ってすごいな。採集しやすいし、今まででは採れなかったものも採れる」
「そうだな。まあ、湖の周りはぬかるんでて大変だったけど……」
「ふふ、レノールは何回も転んでいたものね」
「いや、だって、俺のぜん……」
前世ではこんなことをしたことがないから、と言おうとして慌てて口を噤む。
二人になら前世のことは知られても構わないけれど、それが原因で怖がられたりするのは嫌だった。前世のことを伝えるかどうかは、最近の悩みである。
そっとリウスの方を見ると、目が合った。
誤魔化すように、俺は袋の中に大量に入っている魔法素材を見やる。
「これを売ったら、いくらになるんだろう」
「そうね……きっと、そんなに高くはないと思うけど」
「それでも、今回は魔法薬を買ってないから、お金は増える一方だな!」
そう、リウスの言う通りである。
今回は初期投資が無いので、利益こそ少ないものの損失は出ない。身の危険は少しはあるものの、魔法道具があれば事故は起きないと言ってもいいだろう。
全く、都合が良さすぎて信じられない話である。
流通協会に着くと、今日も変わらずに混んでいた。当然ながら魔法素材買取カウンターも激混みだ。
「おお……。こんなに採集者がいるのに、魔法植物はよく絶滅しないな……」
「そうだな。確かにたくさん生えてるけど、採集者の数に合うかどうか」
ざっと見た感じ、カウンターには二十人ほどが並んでいる。
本当に、絶滅が心配される数だ。魔法植物は大丈夫なのだろうか。
……その疑問は、採集者の手元を見れば解決した。
並んでいる人数こそ多いものの、各々の手に握られているのは、ほんの数個から10個くらいの素材でしかない。魔法道具や魔法薬のおかげでどんどん採集できる俺たちが異常なだけで、普通なら一日がかりで10個ほどが限界ということだろう。
これは、同業者からの妬みや僻みにも気をつけなければならない。
そんなことを思っているうちに、意外と早く俺たちの番になった。
前回売り惜しんでしまった素材も合わせて職員さんに渡し、買取価格が出るのを待つ。
わくわくしながら待っていると、カウンターの職員さんが別の職員さんを呼び、別の職員さんが俺たちを呼んだ。
不審がるリウスとツェリアと一緒に職員さんについて行くと、あまり広くはない個室に案内された。
「買取価格が高くなりますので、こちらにてご案内させていただきます。こちらの素材は、合わせて銀貨4枚と銅貨3枚と鉄貨6枚になります」
「はい」
簡単な売買契約の書かれた木札に名前を書き、現金を受け取る。とりあえずリウスが袋にお金を入れた。
じゃらじゃらじゃらじゃら、前世では考えられない感覚である。なんだか同業者だけでなく盗賊にも目をつけられそうだ。
「これ、どこに保管する?」
「お金だったら、私の家で預かれるわ。ただ、無くなってもわかるように、一応なにかに記録しておいた方がいいかも」
たしかに、その通りだ。
記録係に名乗り出た俺は、家で記録をつけることを約束する。銀貨4枚と銅貨3枚と鉄貨6枚。うん、覚えた。
「じゃあ、うちの金庫に入れて保管しておくわね」
「ありがとう!頼もしいな!」
「ふふん、役に立ててよかったわ」
そのあと、魔法協会に魔法道具を預け、いつものように家に帰る。
そんな生活がしばらく続き、俺は十四歳になった。
ついでに、金貨も30枚近く溜まった。
まだまだ集めて500枚、と言いたいところなのだけれど……。
いつものように採集から帰る途中、リウスが俺の方を向いた。
「レノールも十四歳か。なんか、時間が経つのって早いな……あっ」
「おじいさんみたいなこと言うなよ」
俺は軽く笑ったが、リウスは「あっ」のポーズのまま動かない。
「リウス?どうしたの?」
「ディルズの種でも踏んだのか?」
ディルズの種は、ネバネバしているうえに接着力が強くて、踏むと足が地面にくっついてしばらくその場から動けない。これを踏んだら、ご愁傷さまとしか言いようがない。
「いや、ディルズじゃない。ええと……ちょっと待って、レノールのせいで何を言おうとしたか忘れた」
「ええ……!?」
困惑する俺のそばで、リウスはうなりながら何かを思い出そうとしている。
少しすると、あ、と声を上げて顔を上げた。
「俺たちの夢って、なんだっけ?」
「ベテラン採集し…………商人」
「……レノール」
リウスにじっとりと睨まれて、俺は慌てて弁解する。
「ごめんごめん!ちょっと今の生活に慣れただけで!で、それがどうしたんだ?」
「いや、俺たちの夢って商人なのに、現状採集者だよなって思って。成人まであと2年だし、ちょっとまずいんじゃないか?」
「そ、そうね。このままじゃ採集者ね」
「言われてみれば確かに……」
かなりの肉体労働でちょっと危険があるけれど、採集者はいい仕事である。何より儲かる。
だけど、俺たちがなりたいのは、あくまでも商人だ。採集は、資金集めの手段。目的になってはいけない。
「ということで、だ。そろそろ新たな何かを始めよう!あと2年で450枚の金貨を集められるくらいの!」
「おー!って、ん?……えっ……?」
「ええ……ちょっと考えてみるわ」
俺に出来ることは、料理のレシピを思い出すくらいである。他にできることは……何だろう。
「じゃあさ、またなにか売る?」
「そうだな……。それか、どこかの商店で見習として働かせてもらうとか?」
「そんなにお給料は高くないと思うわ」
「たしかに」
行き詰まった。
これから、どうすればいいのだろう……。
考えがまとまらないうちに、ツェリアのさっぱりとした声が聞こえてくる。
「とりあえず、また商売をするってことでいいかしら?」
少し考えて、考えるまでもないことに気がついて、考えるのを止める。
俺はツェリアの問いに頷いた。
「沢山稼げて、商店を持ちたいなら、商売をするべきだと思う」
「そうだな、俺も賛成」
「じゃあ、次に何を売るか考えましょ。何か案はある?」
お金になる商売。
たくさんお金を稼ぎたいのなら、お金持ちを対象とする商売の方がいい。だけど、俺たちにはお金持ちの知り合いはいない。
ついでに、俺たちの商売がお金持ちに受け入れられる自信もない。
結論、俺たちは人脈とアイデアを獲得しなければならない。
「投資したぶん回収できる見込みがないから、あんまり、準備とかにお金はかけたくないよな……」
「私もそう思う。準備にお金がいらないものって、何かしら?」
「それなら、何かを企画するとか?それか、どこかの工房とかに設計図を売るとか?」
「設計図は、専門的な知識がいるから無理だと思う。やるなら、何かの企画かな」
「賛成。じゃあ、次の商売は何かの企画。売り物は知恵と情報。これでいい?」
俺の問いかけに、一呼吸置いてリウスとツェリアが答える。
「いい!とってもいい!」
「いいと思うわ。よし、これからが楽しみね!」
「そうだな、頑張ろう!」
三人でやる気に火をつけて、新たな商売が始まる。
……うん、始まったは始まったんだけどね。
「ところで、企画業って需要あるの?」
「さあ……ないなら作ればいいんじゃないか?」
「そういえば、商業協会の掲示板に、従事者募集とかの書き込みが沢山あるわ。そこをあたってみたり、そこで自分たちの業務をアピールすればいいんじゃない?」
「それで人気が出て、儲かって、貴族とかからも依頼が来たら最高だな!」
「……上手くいくといいわね……」
あっさりと決まった分、粗は多い。
壊滅的なミスを犯す前に、ある程度の現実的な計画は必要だ。
そして、多分、計画作りには前世を経験している俺が向いていると思う。
二人を支えるために、計画作りを頑張るぞ!
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