第21話 結果は
貴族区域に行った日の二日後、俺たちは約束通り集合して魔法協会へと向かった。
正直、一昨日のことは未だに現実だとは信じきれない。それでも、現実だと頭では理解しているし、現実でないと困るのもまた俺たちだった。
「もう届いてるのかな?」
リウスの問いに、俺は首を傾げる。
「どうだろう。そもそも、見つかったのかどうかも分からないしね。仮に無くても、貴重な経験であることには変わりはないし、感謝の気持ちも変わらないけど」
「そうね。頂く側がどうこう言っても仕方がないわ」
リウスは納得したように頷くと、足を早めた。俺たちも、リウスの後を追って早足になる。
魔法協会の扉を開けると、中は相変わらずほとんど人がいなかった。……だけど、何かが違う。
違和感の正体を探るために視線をめぐらせると、俺はすぐにそれを見つけることができた。
「ぜ、ゼライルさん……?」
「あら、こんにちは!」
……ゼライルさんのテンションが恐怖を覚えるレベルに高い。
いつもならゼライルさんには冷静沈着、クールビューティー、機械的という言葉が似合うのに、今日は違う。
いつもは無表情なのに今日は口元がニヨニヨしているし、足取りが軽いし、声のトーンがやや高いし、全身から幸せオーラが放たれている。
別に悪いことでは無いのだけれど、いつもと違いすぎて怖い。何かあったのだろうか。
「あ、どうもこんにちは。変に思うよね、今日はゼライルは朝からずっとこうなんだよ……」
その疑問を解消するように、通りがかった顔見知りの魔法協会職員が話しながら苦笑いをした。
「そうよね……私も違和感を覚えていたんです。何かあったんですか?」
「なんか、リリアローネ様から古い魔法道具がたくさん届いたらしい。ゼライルは魔法道具コレクターだから、それからこんな調子だ。わかりやすいよな……。ああ、そういえば、君たちにも魔法道具が届いていたよ」
「えっ……!」
「ほんとですか!?」
あまりにあっさりと結果を告げられて、拍子抜けをすると同時に、じわじわと喜びが湧き出てくる。
見つかったんだ!!
本当に、本当に現実で見つかったんだ!!
喜びと安堵と感謝で、俺の顔もニヨニヨと緩む。これは、ゼライルさんといい勝負ではないだろうか。
「今取ってくるね。ちょっと待っていてくれ」
「了解です!」
「ありがとうございます」
遠ざかっていく職員さんの背中を見ながら、俺は興奮気味にリウスに話しかける。
「奇跡だ!」
「奇跡だ……」
「奇跡ね」
……興奮で語彙力が吹っ飛んだ。それくらい嬉しい。
「本当によかったわ……。感謝してもしきれない。一色の武器があったのね」
「そうっぽいね。どうしよう、もういくつかレシピを献上しようかな」
「感激極まってるね」
本気で追加のレシピを考え始めた俺は、ツェリアに肩をこづかれる。
思考の世界から抜け出すと、そこには大きな箱を持った職員さんが立っていた。
「どうぞ。あ、あと、こっちはリリアローネ様からの木札。魔法道具の使い方がざっとまとめられているよ」
「わぁ!ありがとうございます!開けていいですか?」
「どうぞどうぞ。でも、建物の中では武器は使わないでね」
「わかりましたー!」
ついに、待ちわびた瞬間が来た。夢の中ではないかと頬を叩いてみたが、普通に痛かった。
ツェリアが箱に手を伸ばし、紐を解いて蓋をとる。
流れるような動作に感嘆する間もなく、俺たちは魔法道具と対面することとなった。
おそるおそる箱の中を覗き込んだ俺は、驚きのあまりに軽くのけぞる。
「こ、こんなに頂いて、いいのか?いや、本当に……いいのか?」
「えっ……これ全部、もらったのか!?」
「たっ、たぶんそういうことよ。……なんとお礼を申し上げればいいのかしら……」
箱の中には、二十個ほどの魔法道具が詰まっていた。想像では数個だと思っていたので、衝撃の数である。
魔法道具は、剣のような武器系、盾のような防具系、マントのような強化系のものがそれぞれ入っていた。
リウスとツェリアといっしょに一つずつ取り出して見ると、それぞれ三人分あることが分かる。
……本当に感謝しかない。恐ろしいほどいい人である。
「……感無量の使い方を知ったわ」
「俺も」
「そうだ、あとでお礼の文でも書こう!受け取って貰えないかもしれないけど、それでも感謝は伝えなくちゃ」
リウスの言葉に、俺とツェリアは賛成の意を伝える。
そこに、丁度よくゼライルさんが寄ってきた。
「わあ!レノールさん達も魔法道具を頂いたんですね!少し触ってもいいですか?」
「どうぞ」
ゼライルさんは、腰につけた小さな袋から手袋を取り出すと、装着する。そして、近くにあった短剣を手に取った。
「おお……!これは、また、すごい……」
うっとりとした表情のゼライルさんを見て、ツェリアが興味津々といった様子で身を乗り出す。
「どうすごいんですか!?」
なんだか、ものすごく長くなりそうな予感がする。
もちろん俺の予感は当たった。魔法道具コレクター、恐るべし。
「まず、このデザインや魔法核の大きさから見て、この短剣の作者はディオーゼル様のはずです。圧倒的に作り込まれた精巧なデザインが美しいですよね……。ということは、この魔法道具が作られたのは今から四十年ほど前のはずですね。その年代のものが残っていることがもう奇跡ですし、その年代に作られたものの中ではトップクラスに性能がいいです。この大きさの魔法道具を動かすことの出来る魔法核を作れる時点で、当時最先端のはずですね。また、この魔法核は無色ですが、自分の魔法の色で染められるものです。あと、おそらくこれはこちらの指輪と共に使うものだと思いますよ。とても重いこの短剣を振り回して戦うのは無理がありますから。ということは、こちらの指輪は局所筋力強化のものですね。これはまた、素晴らしい!!……ふぅ……四十年前の、ディオーゼル様作の、それも未使用品なんて滅多にありませんよ!!よく見つけられたものです!!」
「お、おお……」
「よくわからないけど、珍しいのね……」
とりあえず、強くて珍しいことはわかった。
あと、指輪と一緒に使うものだということもわかった。
俺がうんうんと頷いていると、ゼライルさんは熱心な説明を止めて、俺たちの方を見た。
「そうでした、ひとつ言っておきますね。貴族から頂いたものは、絶対に転売禁止です。高値がつくものもありますが、そんなことをしたら取り返しのつかないことになりますので注意してくださいね。まあ、貴方達はそんなことはしないと思いますが……」
「もっ、もちろんです!」
転売なんて絶対にしない。それは言いきれる。人として最悪だし、悪徳商店になったら本末転倒だ。
それにしても、リリアローネさんも、優しそうに見えてやっぱり貴族なんだと思う。取り返しのつかないこととは、おそらく処刑かなにかだろう。あんまり処刑とリリアローネさんが結びつかない。
不可解な思考が表情に出ていたのか、ゼライルさんは俺の方をみて、独り言のように呟く。
「リリアローネ様のお姉様方が、ややリリアローネ様を愛されすぎておられますので……。不敬なことをしたら、絶対に一瞬で息の根を止められてしまいます」
お姉様方こわい。
俺は強く頷いた。
「そういえば、リリアローネ様は木札もくださったのよね。これかしら」
「説明が書いてあるって言ってたよな。ちょっと読ませて」
「いいわよ」
リウスが木札を読む横で、俺も身を乗り出して木札を覗き込む。
一部、日常生活で使わない故によくわからない単語があったが、大体は理解することが出来た。
かなり長かったのでまとめると、さっきの短剣と指輪のような、それぞれの魔法道具の組み合わせ方、使い方、使用魔力量、注意事項が書いてあった。理解はできたが、忘れそうな量である。時間をかけて体で覚えるしかない。
「とりあえず、古い魔法道具は重いから、指輪をつけるってことだけ覚えておけばいいか」
「そうだね。他のはじっくり覚えておこう」
そして、木札から目を離して、俺は気づく。
「なあ、リウス、ツェリア。この魔法道具って家で保管できる?」
リウスとツェリアの方を向くと、二人は神妙な顔で考え込んでいた。
ちなみに、俺の家ではおそらく保管できない。お金持ちなわけでもなくただの農家だから、保管してもすぐに汚れてしまうだろうし、盗難に遭ったり、壊してしまう可能性も低くない。
「ごめん、私の家では難しいわ。誰も家にいないことも多いから、盗まれないか心配だわ……」
「俺の家でも難しいな。兄弟が多いから壊されそうだし、そもそも保管できる場所がないかも」
「俺も。そうか……、どうしよう」
さすがに殺されたくはない。だけど、どうしようもない。
俺が解決策を考えようとしたとき、ゼライルさんが目を輝かせて言った。
「よろしければ、私のほうで保管しておきましょうか?」
「えっ……、いいんですか!?」
ツェリアが驚いたように言うと、ゼライルさんは大きく頷いた。
「もちろんです!代わりに、この魔法道具を、多少研究させて頂いてもよろしいですか?」
「あぁ……どうぞどうぞ」
「私のは構わないです。レノールは?」
「研究してもらって大丈夫です」
俺たちの了承を得ると、ゼライルさんは幸せそうに頭を下げた。
「ありがとうございます。では、魔法協会の私の研究室で保管しておきますね。必要なときは、私か職員に言ってください」
「わかりました」
そのあと、ゼライルさんがそれぞれの魔法道具について解説をしてくれた。
まあ、残念なことに、専門的な言葉や貴族の名前が多くて半分くらいしか理解できなかったけど……。
「要約すると、採集のときには、マントと指輪二つをつけて、魔法植物に合った武器を持って、必要ならば盾を持てばいいんですね?」
「とても簡単にすると、そういうことですね」
「採集するとき、おすすめの魔法植物はどれですか?」
「この装備でしたら……そうですね、中程度の魔法植物なら余裕で採れると思います。こちらの湖の周りは群生地ですよ」
「そうなんですね!よし、次はここにしよう!」
というわけで、俺たちは必然的に採集に行くこととなった。
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