第10話 魔法薬完成
「えーと、次はこれ行くか。これで最後だな!」
「そうね。変に攻撃とかをしてくる薬草じゃないといいんだけど」
「魔法植物じゃないんだし、大丈夫だと思う」
ゼライルさんと木の実を採ってから十日ほどがたった。
俺たちは、貰った資料に書いてある素材集めに奔走していた。
魔法植物や魔法生物は、この前とったもの以外は必要ないようなので、今は薬草等の簡単にとれる素材を集めている。
十種類ほどの素材が必要だったが、そのほとんどが、屋台で売っていたり近所に自生していたりしたので、戦闘などは起こっていない。安全第一で何よりだ。
「じゃあ、行くぞー!魔法薬完成はあと少し!」
「「おー!」」
今日のターゲットにして最後の素材は、家から少し離れた草原に生えている薬草。どのような効能があるのかは知らないが、ここに生えているらしい。俺たちはまもなく到着し、資料に書かれた絵を参考に薬草を探す。
「あった!これだと思うわ!」
ツェリアが、手に持っていた薬草と資料の絵を見比べる。必要な薬草で間違いなさそうだ。
「これで合ってると思うよ」
「じゃあこれをとっていくぞ!」
資料には数本必要と書いてあるので、少し多めにとっていく。リウスとツェリアを確認すると、二人とも薬草を握っていた。
それから家に帰り、素材を全てボウルに入れて祝福をかける。
「大地よ、空よ、光の如く赤色の魔力を我に与え給え」
祝福の呪文を唱えると、数回見た事のある光がボウルに向かって飛んで行った。
魔法薬の素材は、光を浴びると自らも光を放ち、ボウルに転がっていた素材はカラフルな液体になった。
「わぁぁ……!ついに出来たわね」
「何度見ても驚く光景だな」
「出来たなら、魔法協会に行ってこよう!売る前にゼライルさんに品質確認をしてもらおうと思うんだけど」
「賛成ね」
出来上がった魔法薬を予め準備していた瓶に詰め、蓋をする。俺たちは瓶を持って、魔法協会まで歩いた。
慣れてきた魔法協会までの道のりを歩き、着いた白い建物。ここが魔法協会だ。
扉を開け、高級そうな絨毯を踏みしめ、受付に向かう。魔法協会はいつ来ても人が少ない。
「ああ、こんにちは。よかったらゼライルを呼ぼうか?」
「お願いします」
魔法協会に来る子供が珍しいのか、受付の人に顔を覚えられていたらしい。受付の人はにっこりと笑って席を立った。スムーズにゼライルさんに会うことが出来るようでホッとする。
「こんにちは。魔法薬が完成したのですか?」
「こんにちは。完成しました」
「良ければ見せて貰えますか?」
「もちろんです」
俺たちはそれぞれの瓶をゼライルさんに渡し、反応を待つ。
ゼライルさんは片目を閉じると、じっくりとそれぞれの魔法薬を観察し始めた。
緊張しながら、ゼライルさんを目で追う。しばらく観察をすると、ゼライルさんは瓶を俺たちの手に戻した。
「……三つとも、あまり品質はよくありません。記載の通りの素材は集めてあるので、一応効果は出るでしょうが……」
「……そうですか…」
俺は唇を噛む。横で、ツェリアが恐る恐る尋ねた。
「売るとしたら、いくらで売れますか?」
その言葉に俺はハッとする。一番大事なことを忘れかけていた。
俺が心の準備をする間もなく、ゼライルさんは即答した。
「売れません」
「……何故ですか?」
ゼライルさんは、魔法オタクの表情にギアチェンジすると、少しの間目を伏せる。
「まず、品質が悪いです。祝福の量の調整が雑ですし、素材も採れば良いという訳では無いのです。素材はそれぞれに合った季節や、色があるので。二つ目として、最近は魔法薬が全くと言ってもいいほど売れないのです」
薄々感じていたことをはっきりと言われ、俺は悔しさで視界が霞むのを感じる。
「この前に言っていた、魔法核を合体させる魔法道具ですか?」
「その通りです。強力な魔法道具が作られるようになり、そこまで強くない魔法道具は安値で取引されるようになりました。一昔前では考えられないことですが、今では金貨一枚で買える魔法道具もあるんですよ」
魔法道具が金貨一枚で買えるのなら、高品質の魔法薬は銅貨で買えるのではないか。そんな恐ろしい想像が膨らむ。
ツェリアは安くても銀貨と言っていたが、それは少し前の話だった。誰も悪くは無いのだが、俺はこの現実を恨めしく思ってしまう。
「最近では、魔法薬よりも安い魔法道具も沢山あるんです。魔法薬も以前よりも信じられないほど安くなっていますが……」
「まだ、高く売れる魔法薬もあるんですか!?」
ゼライルさんの言葉に、ツェリアが希望を見つけたように尋ねる。
「あることはありますが、ものすごく危険ですよ。ベテラン採集者を毎年何人も死に追いやるような凶暴な植物、生物が素材のほとんどです。そのために護衛に雇ったら、護衛代も高いので、経費と利益が相殺されて、利益がほとんどない状態になってしまいます。それに、初心者で一色の貴方たちが採集しようとしたら、間違いなく死にます。なので、そんなことはやめてください」
慌てたようにゼライルさんは早口でそう言った。
ツェリアは絶望したように下を向く。
……危険なのに安いから、魔法薬を作りたがる人がほとんどいないのか。
知ってしまった現実は、あまりにも残酷で、希望が見つからなかった。
「そういえば、貴方たちは何故魔法薬を作ろうと思ったのですか?こんなにも命の危険があって割が悪い作業をするなんてよっぽどの変人ですよ。この街に趣味で魔法薬を作る人は数えられるほどしかいませんし、子供なんて尚更です」
ゼライルさんはそう言って首を傾げた。
ああ、とリウスが答える。
「俺たちは商人になりたいんです。それも、商店を持つようなすごい商人。そのためには資金が必要なんです。なので、魔法薬で稼ごうと思いました」
ゼライルさんは、少しの間、リウスの言葉を咀嚼するように遠くに目を向けた。
言葉を飲み込んだゼライルさんは、驚きに目を見開く。
「そんな無謀な!」
表情や感情の変化が非常に分かりづらいゼライルさんがこんなにも驚くのだから、相当無謀なのだろう。
俺もそう思うよ。ゼライルさんの言葉に内心共感しながら、俺は口を開く。
「無謀だとは俺も思います。でも、やっぱり夢を叶えるために動きたくて。諦める前に何かしたいんです」
「そうです!レノールの言う通りです!」
ゼライルさんは元の無表情に戻ると、何かを考えるように黙り込む。
俺たちも黙って立っていると、ゼライルさんはこちらを見た。
「なら、魔法薬の販売をするよりは魔法生物、魔法植物等の素材を販売するほうが利益は出ると思います。今は、貴族の間で魔法道具作りが流行っていて、素材が全体的に不足しているらしいですから。もちろん、魔法薬よりも更に買値は安くなりますが、安定はすると思いますよ。それに、将来的にもっと素材が不足したら、高値で売れるかもしれません」
「じゃあ、素材を売ります」
リウスの力強い言葉に、ゼライルさんは再び目を見開く。リウスの商人への憧れの強さを、俺も改めてすごいと思う。
「でしたら、流通協会、商業協会にも話を通した方がいいですね。魔法薬と魔法道具の売買は魔法協会の管轄ですが、素材の売買は流通協会の管轄、貴族への商業的な対応は魔法協会と商業協会の管轄ですから」
「はい!じゃあ今から……」
「待ってください。紹介状を書きますね。魔法協会からの紹介状があれば、流通協会と商業協会で舐められることは少なくなると思うので。一度きりの紹介状ですが、この街でなら基本どこでも使えると思います」
「ありがとうございます」
屋台の届出をした商業協会は、店主で賑わう和気あいあいとした場所だったと思う。だが、それも屋台のフロアでの話だ。商店のフロアなどの屋台以外でのフロアではどのような扱いになるか分からない。流通協会はまず場所さえも分からない。ゼライルさんからの紹介状は心強かった。
ゼライルさんから紹介状を受け取り、俺たちはお礼を言って魔法協会を出る。
「まずは流通協会に行くぞ!」
「はいはい」
「やる気があるのはいい事ね」
改めてやる気を出したリウスに苦笑しながら、俺は後をついていく。
流通協会は魔法協会より街の中心部にあったが、中心部に対する恐怖が少なくなっている自分に驚いた。
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