第7話 引き際を弁える

明後日になった。

今日は一昨日早めに集まり、多めのパフィを作る。慣れてきたようで、作業は効率的に進められたおかげで50個のパフィが完成した。


「よっし、レノール、ツェリア!今日もいっぱい売るぞ!」

「そうね、50個売れるといいわね」

「頑張るぞー!」


俺たちは一昨日より沢山作ったパフィを荷車に乗せ、一昨日と同じように噴水広場を目指す。少し慣れた荷車を押しながら歩いていった先の広場は、今日も賑わっていた。


広場をぐるりと見回したツェリアが、目を輝かせる。


「あっ!今日は噴水のまわりが空いてるわ!早く来たかいがあったわね!早く早くっ」

「本当か!?」

「ほら、そこよ!急ぎましょ」


今日はラッキーなことに、いい場所が空いていたようだ。早めに来た甲斐があった。

リウスがすごい速さで駆け、噴水の近くの空いているスペースを確保する。俺とツェリアは荷車を押して、リウスの元に辿り着いた。


そして、机を設置して、パフィを並べる。

人通りが多いせいか、見慣れないお菓子なせいか、高めの値段にも関わらず並べたそばから次々とお客さんがやってきた。


「はい、鉄貨一枚です」

「これからもどうぞご贔屓にー!」

「パフィを三つですね。少しお待ちください」


三人で手分けしながら客を捌く。しばらくすると、50個のパフィが完売した。


「パフィ、本日は完売でーす!」


何人かが残念そうに去っていく。その人たちを見て、少しだけ申し訳なく思った。

……次はもっと増やそうかな。


それからも、三人の予定が合う日に、パフィを50個~100個ほど売った。「美味しい新しいお菓子が売られている」と近所で噂になっているようで、俺たちを見つけると、「ああ、あれか」というような反応をされる。

高めの値段でも買ってくれる人は沢山いて、嬉しいことに連日完売だった。


「新しいお菓子ってすごいな」

「ほんと、そう思うわ」


パフィを一日50個~100個売ると、一日で銅貨5枚~銀貨1枚が売上として懐に入るわけである。そう考えると、俺たちは相当荒稼ぎをしている気がする。


パフィを売るのも50回目程になったとき、流行を探るために広場を回っていたツェリアが、血相を変えて屋台に戻ってきた。


「大変大変!大変よ!」


あまりの勢いに、俺とリウスは固まる。


「……何があったんだ?」

「ついにレシピがバレたわ!多分パフィを食べて、作り方や材料を研究したんだと思う。パフィを売っている屋台を見つけたわ」

「えぇ!?」

「チッ……ついにバレたか」


パフィは、研究は必要だが基本的に作り方は簡単だし、アレンジも効く。パフィの作り方を知った屋台は俺たちとは違う果物をのせているようだった。


「ど、どうする!?このレシピがもしもっと広まったら……!」

「いつかは広まるはずだ。ただ、しばらくは広がらないと思う。バレないうちに沢山売っておこう」

「そ、そうだけど……」


それからしばらくの間に、俺たちはパフィを売りまくった。いつもより多く作り、いつもよりも高頻度で屋台を出す。

しばらくはパフィの作り方が知られていないのと、値下げ競争が起こらなかったせいで利益は沢山手に入った。しかし、一日、また一日と経つうちに、パフィを売る屋台の数は増え、価格は安くなっていった。

……そろそろ引き際だろうか。


レシピも一般家庭も知っているくらいに広まったし、価格も最初の半分ほどになっている。客とは無情なもので、俺たちの屋台に毎日来てくれていた人も、安くて美味しい別の屋台のものを買っていく。レシピを知るものがいなかったことに甘えて味の研究を怠った上に、値段が高い俺たちのパフィは、もう売れるはずがなかった。


「……そろそろ、一旦屋台をやめるか」

「そうね、こんなに広まったらもう売れないわ」

「悔しいが、そうだな……」


リウスが悔しそうに俯くが、不意にその顔を上げた。


「結局、パフィでいくら稼いだんだ?」

「金貨7枚と銀貨2枚と銅貨4枚と鉄貨5枚だ。お金はツェリアの家に預けてある」

「……改めて聞くと、すごい金額だな!」


俺は会計用につけていたメモを見て答える。だが、これでは目標の金貨500枚には到底届かない。

ここで俺は二人に確認をする。


「この金額は、三人で三等分するか?それとも、リウス商店として開店資金に充てるか?」


リウスとツェリアは不思議そうな顔で答える。


「当然、リウス商会のお金でしょう?」

「俺も、開店資金にしたい」


意見が一致。ということで、金貨7枚と少しは開店資金に回された。


そういえば、とリウスが俺を見る。


「次売るためのお菓子は、もう考えてあるのか?」


リウスの質問に、俺は少し考えたあと答える。


「次にお菓子を売っても、一年かけて金貨数枚が限界だと思う。これだと効率が悪いな……」

「なら、魔法薬作りに取り掛かる?」

「賛成」


ツェリアの提案に、俺は大きく頷いた。

次は、魔法薬作りだ。素材集めは危険も伴うそうだが、魔法協会で魔法薬作りの講習を受ければリスクはぐんっと減るらしい。

それに、魔法薬はどの程度効率がいいのかわからないので、試してみたい気持ちもある。


俺が今後の段取りを考えていると、リウスが不思議そうに言った。


「なあ、魔法道具は作れないのか?金貨数百枚で買ってもらえるんだろ?」

「……そう言われればそうだな」


俺は意見を求めるようにツェリアを見る。ツェリアは苦笑いをして肩を竦めた。


「無理よ。魔法道具を作るには魔法核が必要なの。でも、その魔法核は三つ以上の色がないと作れないのよ。だから、貴族にしか作れないわ。もともと魔法道具は魔法の色が一つしかない富豪のために貴族が売ってあげた複合魔法の便利グッズなんだから」

「……そうなのか…」

「それに、三色の魔法道具ならせいぜい金貨十数枚じゃないかしら。全色じゃないとそんなに高くはならないわね」

「なら、魔法薬じゃないと作れないな」


魔法道具は、高い値段の理由があったらしい。はじめて一色しか使えない自分を恨めしく思った。


「じゃあ、次は魔法協会に行ってみよう!ツェリア、レノール、いいか?」

「もちろん」

「大丈夫だ」


俺たちは魔法薬を作ることを決め、次の日に魔法協会に行くことになった。



そして迎えた次の日。

魔法協会は街の中心部にあるので、俺たちは持っている中で一番綺麗な服を着て待ち合わせる。

街の中心部に行くのは二回目だ。商売をもっと広げることになったらここに来る頻度も高くなるんだろうな、とふと思う。


「おーい!レノール!」

「おはよう、レノール」


ぼーっとしながら二人を待っていると、後ろから声が聞こえた。

振り向くと、綺麗な服を着た二人が駆け寄ってくるところだった。


「じゃあ、魔法協会に行きましょ。確か、中心部の大きな白い建物だったはずよ」

「……よくわからないけど、行けばわかるか…?」


半年前と同じように、変わっていく街並みを眺めながら中心部に向かって歩く。道が装飾的になってきたあたりで、ツェリアが何かを指さした。指された先を見ると、確かに白くて大きい建物があった。

……なるほど、あれが魔法協会か。


「あれが魔法協会よ」

「……すごい大きいな!」

「ふふん、でしょ?」


この辺りは、半年前に行った商店がある場所よりは外側らしく、道が装飾的な割に俺たちのような服装の人も多い。


見失いようがない白い建物を目印に歩くと、何度か道を曲がった先に魔法協会の白い建物の入口が見えた。

思わず駆け足で入口に向かう。


「魔法協会……ちょっと緊張するな」

「私も入るのは初めてよ。じゃあ、行きましょう」


俺とリウスとツェリアは魔法協会の重厚な扉を押した。

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