第6話 いざ、商売!

今日は記念すべき屋台を始める日である。本日の流れは、パフィを作って、運んで、売る。簡単3ステップだ。


「レノール!レノール!今日だよな?な?俺の商人伝説が始まったぜーっ!」

「おはようリウス、鬱陶しい」


レシピを取り出し、材料を揃えていると、リウスが期待に満ちたオーラを放ちながらやってきた。

気持ちはわかるが、こっちは小麦粉を量っているのだ。ハイテンションすぎて配合が狂う。


「んな!?だって…だって今日は、屋台を始める日だぞ?」

「はいはい、だったら商店を持った時に喜ぶ分をとっておこうねー」

「そうだな!」


適当にあしらうとリウスはニマニマと口元を緩めながら俺のまわりをうろうろし始めた。

いつリウスが壁にぶつかるかわからなくて怖いので、リウスにも仕事を振る。


「リウスは果物を洗っておいて。おれは生地を作るから」

「了解だぜっ!」


俺が適当にリウスの相手をしながら生地を作っていると、ツェリアもやってきた。


「おはよう!いよいよ今日ね!あ、生地作り手伝うわ」

「ありがとう」


三人で分担しながらせっせとパフィを作る。捏ねて焼いてを数回繰り返すと、三十個ほどのパフィが完成した。


「今日はこれだけか?」

「うん。人気だったら増やそうと思う」

「なるほど。売れるといいわね」


完成したパフィを布に包み、潰れないように籠に入れる。家にあった荷車に数個の籠と机を乗せ、いざ出発だ。


屋台を出すために目をつけたのは噴水広場だ。噴水広場なら通行人も多い。その分屋台も多いが、不慣れな俺たちは他の屋台が近くにいた方が学べるし、やりやすい。


予め打ち合わせをした通りに、噴水広場に向けて荷車をおす。慣れない荷車に苦戦しながら噴水広場に着いた頃には、かなり時間が経っていた。

広場の中心にある、「噴水広場」の由来となった大きな噴水を見て、少し苦労が報われた気がする。

噴水広場は今日も人が多い。屋台に買い物に来ている主婦、遊んでいる子供、通りすがりの老夫婦。様々な客候補がいる。


「ツェリア、屋台はどこに出せばいい?」

「……通行人が多い中心部と大通り寄りは屋台がぎっしりね。なら……おすすめはあの辺かしら?」


ツェリアが指さした先を見ると、民家寄りの人通りがまばらな場所だった。人通りは少ないが、その分屋台も少ない。


「じゃあ、そこに屋台を出そう」

「了解」


頑張って荷車を押し、目的の場所まで辿り着く。荷車から下ろした机を設置して、パフィが入った籠を上に置く。かけてある布を外し、美味しそうに見えるようにディスプレイすれば、準備は万端だ。


「これで、客が来るのかな?」


俺は何となく不安に思って、ぼそりと不安を漏らす。

そんな俺の言葉を聞いて、ツェリアが目を吊り上げた。


「商売人が弱気になってどうするの!客が来なかったら連れてくればいいのよ!」

「……あはは、そうだよな」


ツェリアの強引すぎる言葉に吹き出し、俺は気を引き締める。


「こんにちは!新しいお菓子のパフィはいかがですか?」


商売慣れしているツェリアが通行人に笑顔で売り込み始めると、リウスも負けるものかと声を張り上げる。


「美味しいパフィ、おひとつどうですかー?」

「新しい美味しいお菓子、一度食べてみて下さいっ!」


通行人が数人足を止め、大きな声で売り込むリウスとツェリアとパフィ、そして値段を見る。

ただ、通行人は鉄貨一枚という高めの値段を見て、残念そうに去っていった。


……値段を高くしすぎたか? でも、これくらいの値段にしないと金貨なんて夢のまた夢なんだよな……。


俺が金額に葛藤していると、比較的裕福そうなおじいさんが鉄貨を俺に差し出した。


「…パフィをおひとつ、くれんかね?」


考え事をしていて反応が遅れた俺に代わって、ツェリアが笑顔で鉄貨を受け取った。


「ありがとうございまーす!レノール、パフィを渡して」

「はいよ」


おじいさんにパフィを渡すと、おじいさんは「小さいのに頑張って、偉いのぅ」と優しい目で俺たちを見た。


「ふふ、ぜひ今後もご贔屓に」


去っていくおじいさんを見送りながら、俺たちは初めてパフィが売れた喜びを噛みしめ合った。リウスなんか感動で震えている。


遠巻きに興味深げに俺たちを見ていた人も、おじいさんが買っていったので安心したのか、次々と俺たちの屋台にやってきた。


「すいません、これ一つください」

「そこのぼく、パフィをひとつ」


屋台が一気に忙しくなった。

鉄貨を受け取り、パフィを渡し、お礼を言う。パフィを買っていった数人の客を見ながら、リウスはしみじみと呟く。


「……俺たちが作ったものを買ってもらえるのって、こんなに嬉しいことなんだな」

「そうだな。喜んで貰えたらいいのだけれど」


しばらく客がまばらに来たので、来る度に丁寧に対応する。パフィが残り十個になった時、最初に来てくれたおじいさんが再びやってきた。


「……初めて食べた味じゃ。美味しくてびっくりしたわい。孫にもあげたいから、あと五つ、これをくれんかね」

「五つですね、鉄貨五枚です」


鉄貨を受け取り、おじいさんにパフィを渡すと、パフィは残り五個になった。

その五個もしばらくすると売れて、初日である今日は完売御礼となった。我ながらびっくりだ。


「すごい!全部売れたわね!」

「鉄貨30枚だから……銅貨3枚か!すごいぞ!次は50個売らないか?」

「うん、次は増やしてみよう」


店を畳んで、荷車を押しながら家に帰る。


家に着くと、ツェリアがある提案をした。


「もう一回噴水広場に行かない?流行や人気を探るのも商売人の仕事よ」

「俺も行く!レノールも一緒に行こう!」

「いいよ。今日は一日空いてるし」


ということで、三人で来た道を歩く。

今日の売れ行きの話をしながら歩くと、噴水広場が見えてきた。

思わず駆け足になる。リウスもツェリアも同じ気持ちだったようで、最終的に競走のようになりながら噴水広場に駆け込んだ。


ツェリアに言われた通り、注意深く屋台や通行人を眺めながら、俺たちはぶらぶらと広場をあるく。


「……プリッタのお菓子、流行ってるわね」

「食べ物の屋台は確かに多いな」

「布の屋台は人が少ないね」


各々が思ったことを呟きながら、広場を一周した。

わかったことは沢山ある。特に大事だと思ったことは、プリッタのお菓子の大流行だ。

食べ物を売る店の一割ほどがプリッタのお菓子を売っている。値段は店によるが、平均は石貨3枚ほどだった。


「あ、俺作のキラキラプリッタ!」

「人気があるようね。プリッタのお菓子を食べている人が沢山いるわ」


前世の記憶を元に作ったお菓子が大流行しているのは、なんだか不思議な気分だ。

一通り屋台や客を観察したあと、屋台の打ち合わせをする。


「……じゃあ、次、屋台をする日は明後日で決まりね。時間は今日と同じ、レノールの家集合でいいかしら?」

「大丈夫だ。次は50個売ってみよう」

「そうだな!楽しみだ」


リウス商店は、初日から順調な滑り出しなようだ。よかったよかった。

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