5 2018年10月01日
親愛なる陛下!
来年我が主上は禅譲されるそうです。関白である私には当然、平民レジームから何の相談もありませんでした。主上は随分前から譲国のことを仰せだったようですが、平民レジームが妨害してここまで伸びてしまったのです。主上は傘寿をとっくに過ぎておいでです。後水尾院は独断で退位され、東夷もそれを追認しました。ところが今では独断で退位なさることは不可能なのです。憲法や皇室典範とやらのためだそうです。実に馬鹿げたことです。
フィリップ4世は教皇をアヴィニョンに立てました。教皇のアヴィニョン捕囚です。一国の王が普遍的なローマ教皇を独占するというのは奇妙な話ですが、それでも正統な王家のしたことです。それに対して明治における天皇の江戸捕囚は、薩長の足軽や平民による企てです。何の正統性もなく、純粋な大罪です。江戸捕囚爾来、既に百五十年。孝明天皇の御遺志は、国力を蓄えて攘夷を他日に期することでした。ところが攘夷どころか、国体も含めて根本的に欧化され、全ての伝統は投げ捨てられました。欧化は、それ自体では悪いことではありません。しかし日本の欧化は、民主主義、自由主義、資本主義、世俗主義という形での欧化でした。民主主義ほど日本の国体に反したことがあるでしょうか。
国体というのは今となっては実に曖昧な概念です。右翼が振りかざすだけで、誰もその本義を理解している者はいません。ただ、戦前の国家は一応国体の本義を少しは認識していました。まさにその題名に採られている文部省教学局の『国体の本義』において、日本は万世一系故に優れているとされています。日本には王朝交代、革命がないという意味で、君主主義の本国であり、儒教的に言っても(孟子的なものを非儒教と断定できればですが…)理想国であるはずです。この一事のみが日本の他国に優れている点であり、誇れる点です。国体とは万世一系の君主政のみです。その他の文化や民族性の如きは、全く取るに足りません。日本人、特に今の日本人には欠点も多く、明らかにヨーロッパ人に劣後している性質などいくらでもあるからです。
日本は君主主義の本国であるにもかかわらず、明治以来、代議制、民主主義を導入してきました。天子はずっと平民の虜囚であり続け、あらゆる矛盾を一身に受けられています。1791年憲法の時の、ルイ16世のことを思います。玉はタンプル塔に幽閉され、我々真の王党派は、平民によって参内を封じられています。
そもそも明治維新なるものは、「王政復古」のためになされたはずではありませんか。絶対君主政の確立のために、摂関や幕府など旧来の政治体制が破壊されたのであれば、まだ納得もできるでしょう。ところが、王政復古というものは、薩長の山賊による国家強盗の口上に過ぎませんでした。彼らは勝手に政略を行い、それどころか議会まで開く始末です。そしてその結果が、昭和の外寇を招いて、最悪のバッドエンドに終わってしまいました。アメリカ化させられた上で完全に民主主義化し、天子の位は構造的に現体制との矛盾を深めるばかりです。明治革命は動機も最悪なら、結果も最悪だったということです。今や天子など何の意味もなく、お苦しみになるだけの位になってしまいました。
近代日本百五十年の恥辱の歴史には栄光などどこにもありません。全ては薩長の匪賊の暴戻に基づいており、その後はイギリスとアメリカの世界戦略に巻き込まれていたに過ぎません。先の大戦は自主的なものだったかもしれませんが、愚かさによる戦略的失敗か、せいぜいが偶然的な大洪水です。結果として、伝統的皇室の残骸すらも流し去ってしまったのですから、評価できるはずがありません。靖国神社とか、日本人の個々の犠牲精神については一定の評価はできるでしょう。しかし戦争においては、どの民族であっても殉国の士はいくらでもいます。そして日本人よりもドイツ人の方が遥かに多く死んでいます。日本独自の美徳などでは有り得ません。
平民レジームに徹底的な破滅が降りかからないことには、現状の打破は不可能です。しかし今の世の中は日本一国でどうなる問題でもありません。ということは、最後の審判を待ち望む他ないのではないか、と考えたくもなりますが、待ち望んだからと言って起こるようなものではありません。神の直接的介入なくしては、起こり得ない。核戦争や金融崩壊、こういったものも考えられますが、これも単なる願望に過ぎない。まだ、どこか諦めきれないところが私にあるからこそ、このような嘆きも出て来るのでしょう。その意味で私は亡霊です。いつか完全に諦観が勝利した時、成仏するでしょう。
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