第2話 - C3545CE3-2D64-4FAA-80C6-3D7EA7655C57
「チェックポイント『コーヒー』作成。『逃走』ブランチから新規ブランチ『名乗り』作成。新規ブランチへ移動」
目を閉じた少女は、俺が今までの人生で聞いたことがないほど凛々しく美しい声でそう宣言した。なにを言っているのかさっぱりわからなかったが、今、俺の心臓がドキッとした気がした。
「失礼しました。……私のことはエスと呼んでください」
「あ、あぁ……。了解した」
自身の胸に手を当て、必要最低限すぎる自己紹介を終えたエスに対し、俺は先程の気になる言動を訊く。
「エス、君のさっきの『宣言』……のようなものは一体なんなんだ?」
「私の魔法です。想像していた魔法とは違いましたか?」
「あぁ、だいぶ」
「あれが私の魔法です」
「……さっき外では、『魔法は見せられない』と言っていたが」
「私の魔法は、『必要なときに使う』特殊なものなのです」
「……そうか」
正直なところ、エスの言うことは信じられなかった。魔法と言ったら、こう、なにもないところから炎とか水とか電気とか出すようなものだとばかり思っていた。エスはなにかを宣言したようだが、世界は全くもってなにも変わらない。
……もしかしたら俺が魔法に関して門外漢だからかもしれない。確かに、俺が魔法を目にする機会なんてものは、TVの特番ぐらいなものだった。エンタメ受けするような魔法ばかり目にしていたから、魔法がどういったものなのかに関して誤解していたのかもしれない。
エスの魔法とやらがなんなのかはわからないが、とりあえず、次点で気になっていたことを問いかけた。
「君は何者だ?」
「……魔法使い、です」
「魔法使いには、クリスマス・イブにハロウィンよろしく仮装姿で練り歩く風習があるのか?」
「……逃げてきたんです」
「どこから?」
「……全てから」
どうやら冗談が通じるような状況ではなかったようだ。少女の手の中でコーヒーが揺れた。
「俺は、君が……エスがそのコーヒーを飲み終わったら、エスのことを交番へ送り届けようと思っていた」
「……そう、ですよね」
「なぜ悲しむ?」
「……私は交番を含む全てから逃げてきたのです」
そしてどうやら、この子はなにか大きなものから逃げているようだった。
「私を、匿ってはいただけませんか?」
そしてどうやら、俺に救いを求めているようだった。
「俺は『一般社会』で生きる『一般人』だ。魔法使いである君を、エスを助けるだなんてことはできないだろう……」
「……そうですか。……そうですよね。……それでも、その一言が聞けて良かったです」
「……え?」
「チェックポイント『コーヒー』までリセット」
凛々しい声が聞こえた…気がした。
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