第3話 決意

佳恵から連絡が来た…。


あまりにも唐突なことに私は何回も画面を見直した。

見間違いじゃない。確かに佳恵から連絡がきている。


こんな偶然があるものなのか。

怖いぐらいに奇跡のようなタイミングに、私は急いで外に出た。

怖いドラマや映画を見て、ひとりで家の中に居れない時の気持ちになっていたから。


コンビニまで徒歩3分。

その道のりの中私はこの恐怖がドキドキとした気持ちに変わっていた。

帰ったら返信をしようとウズウズしてしまい何回もスマホをチラッとみた。


通知画面には、まだ佳恵の名前がある。


うれしい…!うれしくてたまらない!

うれしすぎて、妬みや自己嫌悪を吹き飛ばしたこの通知画面のスクショを撮る。


コンビニでいつもは選ばないような高めのパスタと、飲み物も大きめの炭酸飲料を買って帰ってきた。袋を机に置いてすぐスマホを開く。そして通知をタップした。


私はこのうれしい気持ちがばれないようにしないよう必死だった。

昨日の深夜からずっと佳恵の投稿を遡ってみていたなんて気持ち悪いと思われるに違いない。あくまで今の彼女は女の子なんだから。慎重に返信をする。


未来「久しぶり!いきなり連絡きてめっちゃビックリしたwなになに東京遊びに来るの?」

佳恵「久しぶり~。いきなり連絡してごめんね」

佳恵の返信の速さにさらに嬉しさが増した。


佳恵「実は!東京の大学に進学することになったんだ!行く直前で未来に言うつもりだったからずーっと勉強しかしてなくて、全く連絡できなくてごめんね」

未来「え!おめでとう!おめでとう!何それうれしい。こっちこそ連絡できてなくてごめん」

佳恵「ありがとう。大丈夫だよ!そう。だからね、東京に住むわけですからたくさん逢えるわけです!だから、これからはたくさん遊びにいこ!」

未来「いいねいいね!第一弾はいつにする?」

佳恵「来週とかどうかな、ちょっと早めに上京するんだ」

未来「来週だったら金曜日がいいかな」

佳恵「金曜ね!おっけ!」

未来「どこにいきたい?」

佳恵「東京なんて全く行ったことないから何があるのかわかんない…。

あ、そうだ!夢の国に行ってみたいな!行ったことないんだ…」

未来「夢の国!いいじゃん!夢の国なら佳恵に案内できるし。集合時間早めになっちゃうけど大丈夫?」

佳恵「乗りたいアトラクションたくさんある!何時ぐらい?」

未来「じゃあ…7時!」

佳恵「7時!?…がんばるわ」

未来「早起きがんばろうね」


佳恵と2年ぶりに連絡を取り合っている。

しかも夢の国でのデートの約束までしてしまった。

話し終わっても話足らずウズウズしてしまう。

でも何を話しかけたらいいかわからないし…。


私にサプライズ報告するために連絡を取らず、この受験期間を必死に勉強してくれていたなんて。やっぱりまだ私の事好きでいてくれたりするのかな。


さっきとはうってかわり、晴れ晴れとした気持ちが胸いっぱいに広がる。

ワクワクしてドキドキしてたまらない!


何を着ていこうかな。来週までに美容院に行って、新しい服を買いに行こうかな。

「きれいになったね」って言われたいな。

そうだ。アンスリウムのネックレスはつけていかなきゃ。絶対に。

ネックレスに気づいたら喜んでくれるのかな。喜んでいる佳恵を想像して笑顔がこぼれる。


コンビニで温めてもらったパスタはとっくに冷めていたけど、私はお構いなしに佳恵とのデートを明日の予定かのように準備を進める。


そしてこの高揚感に私は確信をした。

あの頃、彼女から好かれていたことに執着していたわけではないと。


私も佳恵の事が好きだったんだ。

その事を受け入れると気が楽になった。自己嫌悪が晴れた。


でも女性同士の恋愛がどんなものなのか予想できていない。

いろいろと知識があるわけじゃないし、そもそも普通の恋愛経験だってあまりない。過去に恋人がいたことは一回だけで、中学校の同級生の男の子だった。

同じクラスで、同級生の他の男子に比べてふざけてなくて、誰にでも優しくて、

いじめはダメって言えて、誰からも親しまれている彼を私は好きになっていた。

1年間悩んで勇気を出し告白した。返事はOKだった。


今思い返せば中学生らしい恋愛だったなと思う。

周りにからかわれながら手をつないで帰ったり、二人で隣町に出かけて映画だけ見て帰ってきたり…今思えばかわいらしい思い出が蘇る。


こんな恋愛経験ゼロに等しい女がいきなり女の子と付き合えるのだろうか。

好きという気持ちだけで二人が幸せになれるとは思えない。

重い女だと思われるかもしれないけど、私は恋人を何人も作りたくない。

付き合ってそのまま幸せに暮らしていきたいと思っている。

結婚を前提として付き合いたいということだ。

だからこそ私は、好きという感情にストップをかけてこのままプランもなしに告白をしていいのかと慎重になってしまう。ひとつだけとはいえ彼女よりも年上の私がしっかりしなきゃ…。


ひとしきり悩んだ後に完全に冷めたパスタを思い出して急いで食べる。

高いくせに冷たい…。まだ始まってもいない恋に悩んでフリーズしていた私のせいだけどパスタに八つ当たりをする。



美味しくないパスタを食べながら、ふと佳恵とのやりとりを見返す。

「だからね、たくさん逢えるわけですよ!」

たくさん逢える…。たくさん逢える…。


「変わっちゃったって思ってたけど、案外変わってないのかもな」

最近の写真だけじゃわからなかったけど、トーク画面にいる佳恵はあの頃の素直で明るい佳恵のままで何も変わっていないような気がした。


炭酸を飲み干し一息つく。そして決めた。


今の佳恵の気持ちはわからないけど、あの頃中途半端にしてしまった恋に決着をつけよう。これからたくさん出かけて、たくさんお互いのまだ知らないことを知って、いつになるかわからないけど、いつかその日が来たら思いを伝えよう。


彼女より先に。あの頃の感謝と一緒に。私はそう決意した。

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