第4話 佳恵side1

小さいころから無意識に同性を好きになっていた。


保育園の頃はクラスの先生を、小学校の時は隣の席の女の子を好きになった。

でもドラマでは男女が恋に落ちているし、アニメの主人公もヒロインに恋をしている。私のこの気持ちはおかしいのだと幼いながら理解していた。


特に小学生の頃好きだった隣の席の涼香ちゃんとは、親友になれたのに私の恋心のせいで彼女を転校せざるをおえなくしてしまった。


自分がおかしいからこんなことが起きたのだと反省して男の子を好きになろうと努力したこともあった。でも、どれだけ男の子と積極的に話しても、スキンシップをとっても、周りの女子達からは冷たい目で見られ、男子からも思わせぶり女とレッテルを貼られるだけだった。


生きづらかった。


気づくと、中学三年生の年に不登校になっていた。


そんな時にネットを始めた。

一日中部屋にこもってSNSとゲームをひたすら往復する生活をした。

そしてあのグループに入る。


未来と出会ったあのグループに。


リアルの世界での友達がいなかった私は、チャットだけで仲良くなったこのグループでのオフ会を開くのが目標だった。元々、人と話すのは大好きで人見知りもしない性格だからグループメンバーひとりひとりと仲良くなることから始めた。


未来の第一印象は「ひとみしり」。

チャットでもあまり発言はしないけど、たまーに会話の中に紛れたりしてる。


初めて電話するときは渋々承諾してくれた。

未来は緊張しているみたいだったけど、どんどんと慣れてきて数時間後には自ら話をするようになっていた。ネガティブで奥手で、だけど心の底は光で満ちていて、でもその光は相手が心に入ってあげないと見えなくて…。


同じような人と前にも出会っている気がする。私を包み込んでくれるような光。

誰だろう…。


そんなことを考えていたら自然と「かわいいなぁ」と口走ってしまっていた。

よく女の子は、挨拶のように「かわいい」という言葉を使うけど、

私の「かわいい」は好きだよという意味も含んでいる。

しかもそのあとはっきりと「未来ちゃんのこと好きだなぁ」なんて言っちゃったし。


案の定、未来はビックリしていて、やってしまったと思った。

でも不思議とこの子なら私を理解してくれる気がした。


わからない。謎の自信だけど。


そして私は素直に女の子が好きだと未来に打ち明けた。

未来は否定することなく聞いてくれたけどただただビックリしていた。

そしてそのまま私達は、別の話をしながら夜更かしをした。


あの日以来、未来は私のカミングアウトを気にしている素振りは一切見せなかった。彼女とは毎日といっていいほど連絡をとりあったり電話をしたりしたけど、私の中にはまだ強い衝撃があって恋する気持ちは膨れ上がっていく一方だった。


未来と仲良くなって一年が経った頃、不登校だった私はなんとか頑張って全日制の高校にあがった。地元とは少し離れた、知り合いがひとりもいない高校を選んだ。


彼女は高校二年生に進級をした。一人もいなかった友達は数人できたみたいで、学校生活も去年より少し楽しくなったようだった。


仲良くなって一年記念として、初めてリアルで会った。

写真は見たことあったけど、動く未来とは初対面なわけで、しかも好きな人である。

前日は寝れなかった覚えがある。


初めて動く未来と会った印象は「麦わら帽子と白いワンピースが似合いそうな清楚な子」だった。


すごくタイプ。

私の好きの気持ちはさらに大きくなった。


その日は、若干遠い所に住んでいる私たちだったから早めの電車でお別れをした。

帰路に着く最中、今日の写真を見ながらホクホクした気持ちで私の笑顔は絶えなかった。また二人で遊びたいな。友達として。あわよくば恋人として…。


いつか思いを伝えたい。次会うことができたらなにか進展があったらいいな。

そうやって次々に妄想していると、ふとあることに気づいてしまった。


未来は、小学生の頃好きだった涼香ちゃんにそっくりだと。


ネガティブで奥手で、だけど心の底は光で満ちていて、でもその光は相手が心に入ってあげないと見えなくて…。

見た目も清楚で、麦わら帽子と白いワンピースが似合うような女の子。

その条件は二人にピッタリ当てはまった。


そして知る。

私は、4年間片思いをした涼香ちゃんにまだ飢えていたのだ。


彼女が私の前から去ってしまって、心に穴が開いていたのだ。

それを埋めたのが、瓜二つの未来だ。


「最悪じゃん」


今までの笑顔を忘れて、私は感情のない顔で真っ暗な窓の外の遠くを見ながら小さな声で呟いた。


もちろんこの言葉を向けた相手は私自身だ。


今日撮った写真を再度見返す。映っているのはもちろん未来だ。

でも、今の私には涼香ちゃんに見える。

はにかんで笑う涼香ちゃん。「今は写真やだ」って急いで顔を隠そうとする涼香ちゃん。アイスがほっぺについて必死に取ろうとしている涼香ちゃん。


全部未来なのに。未来に見えない。


どんなにあの頃を悔やんだって涼香ちゃんは私の前に現れない。

私が嫌いで、気持ち悪くて逃げたんだもん。

会えたとしても目を合わせてすらくれないだろう。


涼香ちゃんは私の「煩悩」だ。私の恋心を悶えさせてくる。


アンスリウム。


私は小学校5年生の休み時間に涼香ちゃんと交わした会話を思い出していた。

「佳恵ちゃん!誕生日にはそれぞれお花があるの知ってる?」

占いや性格診断が好きだった涼香ちゃんは、ある日誕生花の話をしてきた。

「誕生花ってやつ?」

「知ってるの?そう。誕生花ってやつ。物知りだね~佳恵ちゃんは」

「でも、自分の誕生花を知ってるわけじゃないよ」

涼香ちゃんはいつもこうゆう話題を家のパソコンで事前に調べてくる。

結果は小さなメモに書いてくるのだが、そのメモはその日もしっかり机の隅にカンペのように置かれていた。

「私、調べてきたから教えてあげる。佳恵ちゃんは8月8日だから誕生花はアンスリウムなんだって」

「アンスリウム…?なにそれ。聞いたことない花」

「でも響きはかわいくない?アンスリウム…。花言葉は「煩悩」「恋に悶える心」乙女~」

「ふーん」


あの時、花言葉の話は流してしまったが、占いをあまり信じない私は誕生花はもしかすると信じてもいいものなのかもしれないと思った。


だって花言葉が悔しいぐらい図星だったから。





その後未来とは、相変わらず電話やチャットをしていたけど私の心にかかったモヤモヤはとれることなく1年が経っていた。


そして悩みに悩んだ結果、私は最低な決断をする。


未来を、私の理想の涼香ちゃんにしてしまおうと。

どうしても未来として彼女を見ることができないのなら、彼女は涼香ちゃんなんだと思ってしまおうと。


未来は東京の大学に行くらしい。三年生になったら受験で忙しくなってしまうようだ。なら私も東京の大学に行こう。今まで勉強してこなかった分は頑張って追いつかなきゃ。受験で忙しくなったらきっと逢えなくなる。私が東京の大学に受かって上京して久しぶりに会えた時「大人っぽくなったね。綺麗になったね」って言われたい。

そのための自分磨きも頑張らなきゃ。


私を、好きになってもらいたい。


未来が受験期間に入る前、私たちはもう一度出かけた。

私が大学に受かるまで彼女と連絡はとらない。大学生になってからがスタートと決めた。彼女には言わなかったけど、私はそう心に決めて逢えなくなる前のプレゼントも用意してきた。


映画を見て、服屋さんに行って、いつもとなんら変わらない一日を過ごした。


別れ際、私はアンスリウムの花のネックレスを彼女の首にかけた。

これが私のプレゼント。


そして私は「また会おうね」と笑顔で愛しい彼女に手を振った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る