第6話 激闘の果てに

 2005年の宝塚記念は前年の宝塚記念を制した稀代きだいの逃げ馬タップダンスシチーと前年の秋に天皇賞(秋)などG1三連勝を成し遂げ宝塚記念後に海外遠征を控えていた実力馬ゼンノロブロイの一騎打ちとなることが予想されており、ファンの視線もその二頭に集中していた。


 その人気ぶりは凄まじく、タップダンスシチーが単勝1.3倍の一番人気、ゼンノロブロイが3.0倍の二番人気であり、三番人気であった無冠の貴公子ハーツクライは18.3倍の人気に甘んじていた。


 そして、肝心のスイープトウショウはといえば、なんと低評価だった安田記念からさらに人気を落とし、単勝38.5倍の11番人気であった。安田記念で快走を見せたスイープトウショウではあったが、ファンの多くはその走りが展開に恵まれたものであり、実力通りの結果ではないのだと認識していたのだった。

 また、1966年にエイトクラウンという馬が勝って以来、39年間も牝馬が宝塚記念を勝てていないという事実も少なからず人気に影響を及ぼしていた。


 しかし、宝塚記念に向かうスイープトウショウはそれまででも一番の出来と呼べるほどに充実していた。体重も増え、馬体にも身が入って迫力が増した。はげしい消耗戦しょうもうせんとなった安田記念のダメージなど、まるで感じさせなかった。

 39年ぶりの偉業いぎょう達成へ向けて、スイープトウショウはその時を待っていた。



 2005年6月26日、快晴の阪神競馬場で、宝塚記念は開催された。

 早くから二強の激突が注目を集めていたために、メンバー的にはそれほどの顔触れは集まっていない。この年の天皇賞(春)を制したスズカマンボと安田記念を制したアサクサデンエンはともに不在で、先に挙げた三頭とスイープトウショウの他には、G1で善戦を重ねながらもあと一歩が届かないリンカーンに、道営ホッカイドウ競馬の大エースであるコスモバルクが目立つ程度であった。


 レースは意外な展開から始まった。誰もが逃げるであろうと予想していたタップダンスシチーが前に進まずに番手に控える格好となり、代わりに番手に控える形になると予想されていたコスモバルクが逃げる形になったのである。スイープトウショウは普段よりも気持ち前目、中団に位置取りレースを進めていた。


 レースの流れはタップタンスシチーがレースの中盤に先頭のコスモバルクに並びかけていったことで、息をつく暇もない激流になった。他の各馬はタップタンスシチーの早めの仕掛けに対応するために動かざるを得ず、スイープトウショウもまたじわりじわりと位置を押し上げていった。


 最終コーナーを超えて直線に入るところでタップダンスシチーがコスモバルクをかわして先頭に立ったものの、あまりにも早すぎる仕掛けで消耗していたタップダンスシチーにいつもの粘りはなく徐々に失速しっそく


 代わってゼンノロブロイとリンカーンが先頭に立とうかという勢いで上がってきたが、それを超える勢いで二頭に襲い掛かってきたのがスイープトウショウだった。


 道中を中団でレースを進め、鞍上である池添謙一いけぞえけんいち騎手のたくみなコース取りにより、直線で誰もいない大外に持ち出すことに成功したスイープトウショウは満を持して自慢の末脚を解き放ったのだ。


 しかしながら、ゼンノロブロイとリンカーンの二頭も決して脚色は悪くなくスイープトウショウの急襲きゅうしゅうに抵抗していた。また、三頭の後方からはスイープトウショウをも超える末脚を解放したハーツクライが凄まじい勢いで迫ってくる。


 勝者は、この四頭に絞られた。


 ゴールまで残りわずかというところで先に脱落したのはわずかに仕掛けが早かったリンカーンだった。スイープトウショウとゼンノロブロイは激しく競り合いながらも、末脚の勢いに勝るスイープトウショウがゼンノロブロイを振り切る。


 最後に次元の異なる脚でハーツクライが襲い掛かってきたが、それは一歩だけ遅かった。ハーツクライがスイープトウショウを抜き去ろうとしたその時、一足早くスイープトウショウは栄光のゴールへと飛び込んでいたのだ。


 1966年のエイトクラウン以来、実に39年ぶりとなる牝馬による宝塚記念制覇という偉業を、スイープトウショウが達成した瞬間であった。


 また、トウショウ牧場にとっても、トウショウボーイ以来28年ぶりとなる宝塚記念制覇であった。

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