第5話 疑念
スイープトウショウの復帰はやや遅くなり2005年5月のオープン特別戦・
最上位の実績を持つスイープトウショウは当然のように一番人気に推されたが、56kgという
「スイープトウショウはマイルでは実力を発揮できないのではないか?」
「スイープトウショウは牡馬との戦いでは通用しないのではないか?」
そんなような声がにわかにスイープトウショウの周辺で上がるようになっていた。当初スイープトウショウは都大路ステークスを叩き台として、春のマイル王決定戦というべきG1安田記念(芝1600m)への参戦を予定していたが、都大路ステークスの結果を受けて「安田記念は回避した方が……」という声も聞かれるようになった。牝馬同士の戦いならば少し先ではあるがG3マーメイドステークス(芝2000m)もあるし、春シーズンは自重して秋のエリザベス女王杯に向けて仕切り直すべきではないのか……、というわけである。
しかし、スイープトウショウの陣営はそうした声があるのも承知の上で、スイープトウショウを安田記念に参戦させた。スイープトウショウの能力を誰よりも信じていた彼らだけに、このままでは終われないという思いが強かった。
トウショウ牧場にとって、スイープトウショウは1991年に桜花賞を制したシスタートウショウ以来成績が低迷していた牧場に、久々のG1タイトルをプレゼントしてくれた馬であった。花があるうちに引退、などという余裕のある状態でもなく、スイープトウショウの活躍に文字通り牧場の
それだけに、彼らはスイープトウショウの復権を信じざるを得なかったのかも知れない。彼らにとって、スイープトウショウは希望であった。
2005年6月5日。安田記念当日。
春のマイル王を決める戦いである安田記念には、毎年豪華なメンバーが揃うことでも知られているが、この年の安田記念も多分に漏れず
前年の牝馬クラシック戦線でしのぎを削ったダンスインザムードをはじめとして、前年の
一方、スイープトウショウはそんな豪華なメンバーの中にあってやや
レースが始まると、大方の予想通りローエングリンがスタートから先手をとってレースを引っ張り、それを見るような格好でサイレントウイットネスが二番手につき、その後をダイワメジャーやダンスインザムードといったあたりが追走して中団グループを形成。スイープトウショウはそれらの馬を眺めるような位置でレースを進めていた。
そして、最終コーナーを越えて直線に入ったところで一気にレースが動き始める。番手につけていたサイレントウイットネスが地力の差でローエングリンをかわして先頭に立ち、他の各馬も一斉に前めがけて襲い掛かってきたのだ。
逃げ粘るサイレントウイットネスを追いかける各馬の中でも、スイープトウショウの末脚は別格だった。ちょうど一馬身ほど前にいた、七番人気のアサクサデンエンとともに矢のような速さでサイレントウイットネスを追撃した。
ゴールまで残り50mもない地点でスイープトウショウはサイレントウイットネスをかわし切ったものの、似たような脚色で一緒に伸びてきたアサクサデンエンまで抜き去るには、残った距離も末脚もわずかに足りず二着に終わった。
レース前の評価を考えるなら十二分に健闘した結果であったが、春二戦を戦い終えてまだスイープトウショウに余力が残っていることを確認した陣営は、春シーズン最後のG1であるグランプリ宝塚記念にスイープトウショウを参戦させた。
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