第3話 勝ちあぐねる

 2004年3月。スイープトウショウは休養を終え、G3チューリップ賞(芝1600m)から始動した。

 チューリップ賞は牝馬にとって最も重要なレースの一つ、G1桜花賞おうかしょう(芝1600m)へのトライアルとして競馬ファンには知られており、過去に数多くの桜花賞馬を輩出してきた由緒ゆいしょあるレースである。

 また、前年の阪神ジュベナイルフィリーズから、このチューリップ賞、さらに本番の桜花賞は同じ競馬場の同じコースで開催されることから、その結びつきは非常に強いとされており、実際にこの三つのレースを揃って制した馬も数多く存在している。

 このことから、この三つのレースに全て参戦し、あわよくば勝つことが牝馬にとっての、いわばエリートコースであたるといっても過言ではないだろう。


 そのチューリップ賞には、前年末の阪神ジュベナイルフィリーズで巧みなレース運びでスイープトウショウを抑えて勝利したヤマニンシュクルをはじめ、阪神ジュベナイルフィリーズでも顔を合わせた有力馬たちが顔を揃えていたが、スイープトウショウはG1勝ち馬であるヤマニンシュクルを抑えて一番人気に推されることになった。


 レースではいつものように後方からレースを進めたスイープトウショウはヤマニンシュクルに集中マークされる厳しい展開ながらも、最後の直線ではヤマニンシュクルと追い比べる格好に持ち込み、鋭い伸び脚でヤマニンシュクルと前にいたアズマサンダースをまとめてかわして一着でゴールイン。阪神ジュベナイルフィリーズの雪辱せつじょくを果たすとともに桜花賞への優先出走権ゆうせんしゅっそうけんを得て、堂々と桜花賞へと駒を進めた。


 2004年の牝馬クラシック戦線は混とんとしていた。メインストリームというべき阪神ジュベナイルフィリーズとチューリップ賞の勝ち馬がそれぞれ異なっていた上に、別路線からも有力馬が名乗りを上げていたからである。

 その中でも特に有力視されていたのはデビューからの三連勝でG3フラワーカップ(芝1800m)を制し波に乗る良血馬ダンスインザムードであった。

 続く二番手にはスイープトウショウ、三番手にはこちらも無傷の三連勝でもう一つの桜花賞トライアルであるG2フィリーズレビュー(芝1400m)を制した快速娘ムーヴオブサンデー、更に阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬のヤマニンシュクル、二月のクイーンカップ(G3・芝1600m)を勝っているダイワエルシエーロなどが続き、他にも実力ある伏兵馬が桜の女王の座を狙っている状況であった。



 そして迎えた桜花賞当日。スイープトウショウはダンスインザムードに次ぐ二番人気としてレースに挑んだ。

 ところが桜花賞のスイープトウショウは、どこか本調子ではなかった。例によって後方待機からの追い込みを図ろうとしたが、いつものような豪快な伸び脚はなりをひそめ五着に敗れてしまったのである。

 幸い、しっかりと自己賞金を上積みしていたスイープトウショウは牝馬クラシックの第二戦である優駿牝馬ゆうしゅんひんば(通称オークス:芝2400m)への優先出走権こそ取り逃したものの、レースに出走するのに足りるだけの賞金を確保しており、無事に優駿牝馬へと駒を進めることになったが、調教師をはじめとした関係者は原因不明の敗北となった桜花賞からの立て直しを図るべく奔走することになった。



 優駿牝馬当日。スイープトウショウは桜花賞よりやや人気を落として四番人気というポジションでレースを迎える。一番人気は無敗の桜花賞馬として二冠制覇に期待がかかるダンスインザムード、二番人気は勝ちからは遠ざかりながらも安定した走りを見せるヤマニンシュクル、三番人気はこちらも勝ちきれぬ競馬が続く実力馬アズマサンダースといった具合で、ダンスインザムード以外の馬はどこかしらに不安要素があるように見られており、ダンスインザムードが単勝1.4倍の絶対的大本命に祭り上げられていたのも無理からぬ話であった。


 結果から言えば、そのダンスインザムードは2400mという距離がこたえたか伸びきれず六着に敗れ、勝ったのは桜花賞で四着だったダイワエルシエーロ(六番人気)。積極的な先行策からの見事な逃げ切り勝ちであった。

 スイープトウショウはというと、関係者の尽力じんりょくもあり復調に成功。後方からの鋭い伸びでダイワエルシエーロを追い詰めたものの、3/4馬身差及ばず二着に敗れている。


 春シーズンを不完全燃焼で終えたスイープトウショウは、捲土重来けんどちょうらいを期して秋まで休養に入った。

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