第2話 生まれながらの名馬

 スイープトウショウは、2001年北海道静内町ほっかいどうしずないちょうのトウショウ牧場で産声を挙げた。


 トウショウ牧場と言えば、1970年代に『天馬』と称された名馬トウショウボーイを送り出すなど、伝統あるオーナーブリーダー(馬主ばぬしを兼業する生産者)として、2015年に廃業するまで競馬ファンに永く親しまれてきた名門牧場であった。


 スイープトウショウの母であるタバサトウショウ、祖母に当たるサマンサトウショウもその名が表すようにトウショウ牧場(馬主名義はトウショウ産業株式会社)の持ち馬であり、その血統図けっとうずには牧場の最高傑作たるトウショウボーイの名前も見える。筋金入りのトウショウっ子であった。


 父親のエンドスウィープは、日本とアメリカの双方で活躍馬を送り出した種牡馬しゅぼばフォーティーナイナーの子供であり、世界の競走馬の血統地図を塗り替えた偉大な種牡馬であるミスタープロスペクターの孫にあたる。

 エンドスウィープはスイープトウショウが生まれて二年後に急逝きゅうせいし、日本で交配して誕生した子供は三世代しか残せていないが、スイープトウショウを始めとして、ラインクラフト、アドマイヤムーンと全ての世代からG1馬を送り出しており、その早すぎる死を惜しまれている。


 偉大な祖父の血を受け継ぎ名種牡馬の片鱗へんりんを見せながらも早世した父親と、名門の血を受け継ぐ母親の間に生まれたスイープトウショウは、生まれながらにして名馬たることを望まれていた馬であると言っていいだろう。



 そして、それから二年後の2003年10月にスイープトウショウはデビュー戦を迎えた。単勝1.8倍という圧倒的な1番人気に推されたスイープトウショウは、後方から一頭だけ次元の違う末脚すえあしを見せつけて完勝し、返す刃で牝馬限定のG3ファンタジーステークス(芝1400m)に挑戦。レースでは出遅れながらも、最後の直線に入ると大外からの豪快な差し切りを見せて二連勝とした。


 力の差をこれでもかとばかりに見せつけたスイープトウショウは、年末の大一番であるG1レース・阪神ジュベナイルフィリーズ(芝1600m)を、単勝2.1倍の堂々の一番人気として迎えることになった。


 しかしながら、このレースではいつものように後方から追い込みを図るものの、直線に入って行き場を失ってしまうという致命的な不利もあって五着に敗れてしまう。単勝の倍率が示していたように、能力的には抜けているものがあるというのは衆目の一致するところであっただけに、極めてもったいない敗戦であった。


 スイープトウショウは失意に沈む間もなく次なる戦いへと向かった。能力的には図抜けているスイープトウショウを何とかしてクラシック戦線に向かわせたい陣営は、阪神ジュベナイルフィリーズから一か月後の牝馬限定のオープン特別戦である紅梅こうばいステークス(芝1400m)へ参戦させた。いくらG1レースで五着に敗れたとはいえ、既に重賞じゅうしょうを勝っている三歳馬を年末のG1の翌月にオープン特別のレースに出走させる、とは異例もいいところである。

 当然のことながらこのレースで単勝1.3倍の大本命に推されたスイープトウショウは、このレースを苦もなく勝利。賞金を上積みすることに成功し、大目標である春のクラシックレースへ向けて短い休養に入った。

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