時代を先駆けた女帝~わがまま娘の挑戦~

緋那真意

第1話 牝馬の時代

 2020年6月28日、阪神競馬場。中央競馬の上半期の最後を飾る宝塚記念たからづかきねん(芝2200m)が開催された。


 かねてより続く新型コロナウィルスの猛威から、残念なことに競馬場に観客を入れない無観客開催となったが、レースの方はG1勝ち馬八頭を含む粒ぞろいの精鋭が揃い、白熱したレースを見せてくれた。


 勝利したのは昨年の秋華賞しゅうかしょうを制した四歳の牝馬ひんばクロノジェネシス。降り続く長雨の影響もあり、荒れた馬場でのレースとなったが、クロノジェネシスはそんな馬場をものともせずに男勝りの走りを見せ、二着となったキセキに六馬身差をつけて圧勝したのだった。



 近年は『牝馬の時代』などと呼ばれることもある。サラブレッドの世界においても性差による運動能力の差異はあり、それ故にレースでは牝馬にハンディキャップが設けられているのだが、近年では調教技術の発展もあり牡馬ぼばと牝馬の差というものは確実に縮まってきている。この流れは世界的な流れでもあり、世界競馬の最高峰レースの一つである凱旋門賞がいせんもんしょうでは最近十年間で牝馬が七勝(うち連覇達成が二頭)もしている。


 日本においても昨年の年度代表馬に選出されたリスグラシューをはじめとして、日本競馬史上初のG1通算八勝に王手をかけている三冠牝馬アーモンドアイ、今年の大阪杯おおさかはいを制した女傑じょけつラッキーライラック、また少し昔を振り返ればジェンティルドンナ、ブエナビスタ、ダイワスカーレット、ウオッカなど錚々そうそうたる牝馬たちが牡馬をも上回る活躍を見せている。


 しかしながら、ダイワスカーレットとウオッカが出現する以前、2006年頃までの日本の競馬界では、牡馬を上回る活躍をする牝馬というのは少数派だった。冒頭で取り上げた宝塚記念からして、2005年にある馬がレースを制するまで40年近くに渡り、名だたる名牝めいひんたちが挑みながらも優勝することが叶わなかったほどである。


 今から15年前の2005年、宝塚記念を制したのはスイープトウショウという名の牝馬だった。


 彼女は、キレのある末脚を武器に前年の秋華賞、宝塚記念と同年に開催されたエリザベス女王杯を制し当時から女傑と名高かったが、それと同時にとんでもないじゃじゃ馬としても名を馳せていた。


 若いころはレースで出遅れ、古馬になってはゲート入りを嫌がり、馬場入りを嫌がり、しまいには調教すら嫌がって、登録していたレースを調教不足から回避するという珍事ちんじすら引き起こしている。


 牝馬らしからぬ強さを持ちながらも、常識外れのじゃじゃ馬ぶりで競馬ファンに愛されたスイープトウショウとは、果たしてどのような馬だったのであろうか?

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