『お怪我けがをなさってますか?』




彼女が見つめているのは僕の手についた

真っ赤な血のあと




「あっ!いや。 僕は大丈夫」




「それよりあなたはここのスタッフですか?」



『はい施設看護師しせつかんごしですが』



「あのここで何が起こっているか、

 教えてもらえませんか?」



『なにがとは?』



「人がいっぱい死んでるんです。

 僕は寝てて、それで・・・  」



『えっ本当ですか?

 私は救護室きゅうごしつにずっといたので知りませんでした』



それで彼女は無事だったのか?



事態を知らないと。



その時、

僕の腕の中の幼女が僕の服のすそを引っ張った。



「どうしたの?」



僕は小さな声で腕の中の彼女にたずねる。



彼女は言いにくそうに口を引きむすび、

僕をじっと見つめていた。



僕は彼女の口元に耳を近づける。



「なに? 言って」



『し・・・ 』



 死?



彼女は必死で何かをうたえようとしている。



『しこ』



 死虚?



そんな二人を間近まぢかのぞき込む気配けはい寒気おぞけが走る!?



振り替えると変わらぬ位置で看護師が、

死を見つめる虚無きょむの目で、

じっとこちらを見つめていた。




『おし こ 』



 汚死枯!?




れ果て汚染おせんされた死の海で、

彼女は涙目で股間こかんをもぞもぞさせ、

仕切りに何かをうったえようとしていた。




そんな二人に離れた位置から看護師が、

話しかけてきた。




『大丈夫です。私に任せてください』




そう言って彼女に手を伸ばす看護師に、

少女はおびえたように僕の腕にしがみつく。



そんな彼女をあやす様に看護師は、

そっと僕の腕から奪い去り抱き抱えた。




汚死枯おしっこ




彼女は何故なぜか、

耳元で小さく囁かれた少女の声を拾っていた。


 

 

幼女は彼女の腕の中で身をこわばらせ、

おびえたようにただ黙って彼女を見つめていた。




借りてきた猫のようにただじっと。



 

 

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