深淵の帳

 


扉を開いてすぐに目に飛び込んだのは、

まるで水族館のような全面ガラスりの通路。




左側面ひだりそくめんもうけられた通路は、

天井までガラス張りになった、

深海パノラマの展望様相てんぼうようそうをかもしだしていた。




その深海の宇宙を、

雪の結晶のかたまりの様な深海ジンベイザメが、

優美ゆうびに横切っていった。




右側の壁にはいくつかのドアが並んでいた。




その1つが唐突とうとつに開き、中から看護師なのか、

白い服をまとった女性が1人出てきた。



ツルツルとしたビニールの様な材質の服。



未来人を思わせる格好の女性は、

こちらの視線に気づいてか、

こちらに振り向いた。



死者の山積さんせきする電車内でただ1人動く生きた人間。

(子供を除いて)。



それが殺人鬼でない確証はない。



どうするか迷っていると、

彼女はこちらに向かい歩きだした。



黙ってこちらに向かう姿は、

獲物えものをとらえた猛禽類もうきんるいのそれにも見えた。



状況じょうきょうがわからない中、

僕はただ黙って彼女の動向を見守るしかなかった。




こちらの目の前まで来て立ち止まった彼女は、

こちらをうかがように見つめ、静かに口を開いた。



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