死者の目。




その残像と動悸どうき合間あいまささやく声が聞こえた。




  ─助けて─




それは空耳かと思うほどの小さな声。




 死霊のささやき。




小さな人形のよう輪郭りんかくが浮かび上がる。



座席の下の影の中からいずり出てくる、

小さなシルエット。



それは6歳前後の小さな少女の顔だった。




 君は・・・




僕はそうたずねたつもりで上手く言葉が出なかった。




『助けて・・・  』




僕は恐る恐る捕まれた足首の小さな手首をつかむ。



とっても生きているとは思えないほどの冷たな手。



僕は思いきってその手を引き、

座席の下から少女を引っ張り出す。



そこから出てきたのは少女の残骸ざんがい



上半身だけで下半身のない小さな少女なにか



その狂気の残骸ざんがいを前に、

僕は腰を抜かし手を振り払い逃げ出しそうになる。




その瞬間、少女の絶望ぜつぼうに満ちた顔を見るまでは。




僕はすんでの所で心を落ち着けた。




『助けて・・・  』




再びささやかれた小さな悲鳴を僕は飲み込んだ。




大丈夫だいじょうぶ?」




僕は少女を抱き寄せ座席の下から引っ張り出した。




上半身だけに見えた少女の体は、

ちゃんと五体満足でそろっていた。



6才前後の少女は必死で僕の腕にしがみつき、

小さく震えていた。




僕はふたたび少女にたずねた。




「なにがあったの?」



『わからない』


 

『ママ』




そう言って必死でしがみつく温もりはとても小さく。



僕はそんな小さな子供におびえていた事をじた。




「一緒にママを探そう」




僕はそう言うと彼女を抱き上げ、

死体を見せないよう少女の小さな頭を胸に押し当てて、

陰惨いんさんな死のうたげ残滓ざんしただよう車両の中を、

前方に向かい進んでいった。






 

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