人のふりをして巷間に紛れる『同期体』という生き物と、その観察したとあるひと組の男女のお話。
あるいは、男女それぞれ二名ずつの仲良し四人組の青春群像劇。ただそのうちの男女各一名ずつが『同期体』で、お互いに意識を共有する関係——というか実質『わたし』というひとつの意思の支配下にあるいわば端末みたいなもので、つまり個々の肉体を超越したところに個体としての自我があるため、世に言う『恋』を知ることがない、と、いまいち上手く要約できませんがだいたいそのような物語です。
お話はすべてこの『同期体』=『わたし』の視点を通じて描かれていて、つまりは四人組のうちの残り二名に関わりながらその様子を観察するような形でお話は進んでいくのですが、この『わたし』の独白というか思考というか、考えの変遷していく様がとても魅力的です。
この同期体さん、要はSFやファンタジー的なすごい生き物というか、少なくとも個体としての人間よりは優秀で、なおかつそれを自覚しながら人の世に紛れる立場にあるのですが。そのおかげかどこか神の視座にも似た冷徹な話しぶりの、その確かな説得力とはまるで裏腹のこの情操の芽生え。いや裏腹というのもおかしいのですけど、でも大雑把な言い方ではある種のギャップのような、もう少し丁寧に言うなら『人とは全く違う種の中に生まれた人らしい感情』であるからこその美しさというか、とにかくくっきりと浮き彫りにされた何かの、その厚みのようなものを感じました。
いや実際、序盤なんかはゾッとするところもあるというか、おそらくは人類と敵対的な関係にあるはずの存在なんですよ。人知れず人の世に紛れる異種の生命体。本来相入れないはずの存在が、でもまっすぐな青春の風景を通じて、我々と同じ何かを共有してしまう光景。どこか危うさのようなものを孕みながらも、それでもこの結末と同じ風景が続くことを信じさせてくれる、優しくも力強い作品でした。