第2話 剣聖は再び剣を取る 壱



「さて………まずどうしたら餓死しないか考えないとな」



 あの後結局クソ親父を10秒ほどで捕まえ10分くらいサンドバッグにしてやったが結局屋敷は俺1人になってしまった。



 別に俺は剣を握ることを戒めているので有って、暴力を振るうことを戒めている訳ではないのだから己の信念には何も離反しているところなどない。



 まぁそんなくだらないことは置いておいて、今回俺が餓死しない為には、たくさんの弁当を買い占める必要があるのだ。そうでもしないと、俺は1週間に1度くらいのペースでしか外に出るつもりはないので、一回の買い物で1週間分の食料を買いに行かなければならないかいう事実に絶望してしまう。(だったら何日かに分けて買いに行けば良いと気付いているが俺は面倒くさいので、やっぱり一回で全部済ませたいのだ。)



「それじゃあ弁当の買い占めに行くか!」



 と俺はわざと大きな声を出し、外に行く為着物から洋服に着替えるのだった。



 ネタバレをするのは癪だがあえて言おうではないか。



 この日、俺は再び剣を取ったのだった。

  


 






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ん?ああナンパか。……取り敢えず介入するかな」



 俺は弁当を買いに行く途中、男2人が桃色の髪にエメラルドの瞳をした美少女を無理やりどこかに連れて行こうとしていた。


(身長は160くらいだな、まぁ見覚えなんて微塵もないんだしとっとと介入して助けるか)



 少女についての分析を行おうとしてしまったが、それよりも助ける事が先だと思い、

クズ男達を無視して少女に話しかける。



「ごめん!待ったか?一応約束の5分前に……あんたら人の女に手を出すとはどういう了見だ?」



 と、俺は一応演技する。これくらいは余裕で出来るのだが、実際はここから先が正念場だ。



 彼女が俺の意図に気づいてくれればかなり楽に事が進むのだが………どうやら神様は俺を見捨てていなかったらしい。


 

 彼女は、俺と目を合わせて信用する事にしたのか、


「ううん、大丈夫。ちょっと絡まれていただけだから。だから私は何もされてないしあの人たちも許してくれないかな?」



 完璧な返しをしてくれた。


(よし!かなりありがたい!こうでもしないと話が進まないからな……)



そう俺は心の中で安堵して、目の前にいる男2人を見据える。



 2人は明らかに怒っており、俺に向けているその視線には殺意が6割、怒りが4割と言った感じに俺に対して向けられていた。



 しかし俺はここで大きな疑問を抱いてしまう。



(余りにも殺意が強すぎないか?)



 普通だったらこの程度で殺意など湧くはずもないのだが……この殺意の密度からすると何か俺がこのクズ男達を刺激してしまうと、俺が殺されにかかる可能性があるのだ。



 ただ余りにもおかしい。異常なほどに俺の勘が警鐘を鳴らしているのだ。



 俺は即座に身体強化を発動させ、思考速度を跳ね上げると同時にその魔術の発動がバレないように隠蔽する。



(さて、あと体感で20秒ほど考える事ができるな、まず、明らかに2人とも武術において心得があるな。多分2人とも短剣を十全以上に扱えるはずなんだよな………あれ?これもしかしてだけど暗殺者か?)



 だがその可能性を俺は振り払う。確かに気配を消した歩行術を扱っていそうだが、それにしてもこんな白昼堂々とナンパをするような馬鹿が暗殺者として生きていけるのだろうか??いや、生きていけるはずがないだろう。

というか、大男の方は大剣をよく使っているだろうが。


 

「ねぇ君は沙耶香さんの恋人なのかい?」


「あぁ、そうだけど俺の沙耶香に手を出さないでくれるか?」


 俺が思考していると2人のうち片方の細めの男が俺に話しかけてきたので、俺は不機嫌そうに一蹴する。



「あぁ!?手前ぇふざけてんのか!?姫崎さんはお前のじゃねぇんだよ!」



 そう大男が俺に怒鳴りつけるが無闇に反論してしまうと絶対にボロが出てしまうので、最も相手の正気を失わせる方法に出た。



「え?何言ってんの?俺の彼女だし沙耶香は俺の物って事だろ?」



 俺はクズ男達を怒らせる為に沙耶香さんは、俺のものだという事を理解させたのだ。



 案の定クズ男達は、その言葉で完全にキレたようで、


「ふざけんじゃねぇ!!殺してやる!!」


「良い加減にしてもらえますか?不愉快ですからっ!!」


 

 と2人は殺意が全開になり、大男は大剣、細目の男はダガーを2本のダガーを逆手に持った。



 その光景を見た沙耶香さんは相当焦ったのか、2人に慌てた様子で話しかけた。



「山田君!広樹くん!ダメだから!それ以上騒ぎを大きくしないで!警察に捕まっちゃうよ!?」


「大丈夫です沙耶香さん、こいつを殺して隠蔽すれば良いだけですから。」


「広樹の言う通りだ。証拠さえ隠してしまえば俺たちは犯罪者になる事などないのだ

ら。」


「……完全に狂ってるな。ここまで狂っている人間なんて今まで殆ど見た事がないぞ?」


「違います!2人のせいで確かに何度も迷惑な目にあったけれどしっかりと言うことは聞いてくれんです!」



 と、沙耶香さんが今の2人は異常だと俺に説明する。しかし、原因が全く持ってわからないのだ。



(いや、まてよ!もしかしたらアレか!?)



 俺は軍の一員として戦っていたからこそ辿り着く事ができた。

 いや、


 

 それがどれだけの人を狂わせる可能性を秘めているかが………!!



 俺は思わず握り締めた拳から血が出るほどに怒りで心が塗り潰されてしまう。



 そして人を狂わせる術式である、

【狂人化】クレイバーハートを生み出したクズ共は、確かに俺が戦時中に切り殺したはずなのだ。


俺は己の不甲斐なさで犠牲者が増えてしまったことを悔やみ、沙耶香さんに、絶望的な言葉を突きつける。

「沙耶香さん、残念だけど、もうこの2人はもう助からない」


「っ!!なんで!?まだ意識があるじゃないですか!?ちゃんと生きてるじゃないですか!?」



 沙耶香さんが、俺に放った言葉は、俺が昔隊長に言った言葉と同じだ。分かってる、だからこそここで仕留めないともっと多くの被害者が出てしまうんだ。


「今はまだ意識はある。だけどな、2人にかけられた魔術は魂を汚染するんだ。だからもう2度と元に戻ることはないんんっ!!」


 俺が沙耶香さんに話しかけ、少しだけ2人への意識を逸らした瞬間、俺の首を切り飛ばそうと広樹という細目男は右のダガーを振るった。


「ちっ、仕留め損なったか……まあ良い次で殺してやるから安心してくれ」



 と、めちゃくちゃなことを言われて、つい俺の顔が引きつってしまうが、


「はっ!殺せるもんなら殺してみやがれ!」


俺はその言葉を一蹴して、獰猛な笑みを浮かべ、すぐさま臨戦態勢になり、

 戦闘狂バトルジャンキーの血が騒ぐのだった。






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剣聖と神子 〜この魔法世界で剣聖は再び剣を取る〜 リフレイン @rifrain

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